ストレスチェック制度の本来の目的と、実際に企業ができること

アイコン 2016.10.13 ストレスチェック
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ストレスチェック制度が2015年12月に施行され、50人以上の従業員をかかえる事業所は、年に1回のストレスチェックをすることが義務付けられました。

お仕事をされている方は、ストレスチェックを受けられた方も多いかと思います。あまり浸透していなかった制度なので、いきなりでビックリされた方もいたのではないでしょうか。

現在、駆け込みで実施されている企業も多いかと思いますが、初年度がもうじき終えようとしています。私自身も複数の企業様で、ストレスチェックの実施責任者として従事させていただきました。

ある程度は予想されていましたが、実査にストレスチェックを実施してみてみえてきたことも多くあります。ここでは、本来の厚生労働省のストレスチェックの目的を整理し、実際に企業ではどのようなことができるのかを振り返っていきたいと思います。

 

1.厚生労働省によるストレスチェック制度の目的とは?

ストレスチェックの本来の目的は、従業員のセルフケアの促しと職場環境の改善が目的です。

ストレスチェック制度の目的は大きく2つあります。

ストレスチェックはもともと、健康診断のような形での病気の早期発見を目的としていました。ですがそれがメンタル不調への偏見につながるという声もあり、制度的にはセルフケアの促しという形にとどまりました。

ですからストレスチェックは、メンタル不調者を見つけ出すという目的ではありません。セルフケアの観点で、本人が自分自身のストレス状態を把握するきっかけにするものとなります。自分のストレスにはなかなか気づきにくいものです。年に1回、自分のストレスと向き合う機会を作ることを目的としています。

 

もう一つの目的が、職場環境の改善についてです。個々人のデータを集計して、部署レベルや会社レベルなどで集団のデータを出します。それを踏まえて、改善につなげてもらいたいという目的があります。

個人が特定されないために、10人以上の集団で分析をしてよいこととなっています。ですから会社全体だけでなく、部署単位や年代などで集団データを抽出することもできます。

 

このような目的で実施されることになったストレスチェックですが、会社側にある義務は以下の2つになります。

集団分析に対しては、会社の体力や実際のマネージメントによっても、とれるオプションの幅があります。ですのでこの部分は、努力義務とされています。

 

2.ストレスチェックの組織分析には限界がある

通常のストレスチェックでは、組織分析に違いを求めるのは限界があるかと思います。組織分析を強みにされている業者に対しては、PDCAサイクルを回せるようなレポートが得られるかを見定めてください。

ストレスチェックは、そのほとんどは厚生労働省の推奨する職業性ストレス簡易調査票57項目を用いています。ですからストレスチェックの内容自体に大きな違いはなく、結果の出し方は業者によって違いますが、その内容はほとんど同じになります。

この質問票は非常によく練られているのですが、残念ながら集団分析としては不十分かと思います。

実際に質問項目を見ていただければわかると思いますが、質問項目が抽象的です。具体的に問題点を抽出できなければ、それに対するアクションは考えられません。

本当の意味で集団分析を考えていくには、従業員満足度やモチベーションといった違うパラメーターも必要になるかと思います。

例えば「上司のサポートが足りない」という結果がでたとしても、従業員がどういったものを望んでいるのかは状況によって異なります。昇進や昇給といった評価なのか、仕事を教えてくれないといった教育なのか、仕事の進め方といった実務なのかもわかりません。

ですから現実的に、ストレスチェックに組織分析を期待するのは難しいと言わざるを得ません。標準的な厚生労働省のストレスチェックを使って組織分析を強調されているサービスは、慎重に話を聞いた方が良いでしょう。

PDCAサイクルを回せなくては意味がありません。この点をしっかりと確認してください。

 

3.ストレスチェックのセルフケアをより充実させるための要件

セルフケアから早期発見につなげることが重要で、産業医と情報共有できることが重要です。企業側からみた高リスクの従業員情報があると、なお早期発見につながります。

ストレスチェックはセルフケアを目的としていますが、そこから早期発見につなげることが、企業にも従業員にも有益なことになります。

ストレスチェックでは、個人情報の保護が最優先されます。ですから高ストレス者の情報は、企業の関係者に伝えることはできません。ストレスチェック実施責任者が把握することとなり、産業医が行うのが最適です。ですから高ストレス者が面談を希望しなかった場合でも、結果を産業医が情報共有できることが大切です。

産業医が情報を把握していれば、過重労働や健康管理などの何か別の機会の中でフォローアップができます。

さらにいえば、企業側からみてメンタル不調のリスクが高そうな人をリストアップしておいていただけると精度はさらにあがります。

もしも高ストレス者を本気でフォローしたいと思ったら、「ストレスチェック制度を使わずに産業医面談を希望すれば、個人情報は会社には伝わらない」ということを周知いただくことです。高ストレス者が面談につながりやすくなります。

 

4.ストレスチェックを会社のリスクから考える

個人情報管理と面談希望者の扱いが重要です。個人情報管理が信頼でき、高ストレス者の面談希望の有無が形に残れば理想です。

ストレスチェックを、会社のリスク管理の観点から考えてみたいと思います。ストレスチェックの会社の義務は、

この2つでした。ですからストレスチェックを実施しないというのは論外になります。もちろん、希望者がいて医師の面談機会を用意しないのも論外です。

これらは当たり前のこととして、会社としてはどのようなリスクがあるでしょうか。ストレスチェックに関しては、会社は面談希望者以外の情報を知る由がありません。ですから、仮に高いストレス者がいたとしても、ストレスチェックがリスクにはなりえません。(※業務起因性があれば、会社の責任となります。)

ストレスチェックで問題になるとしたら、以下の2つです。

個人情報が漏れてしまったというのは、会社の責任になってしまいます。ですから個人情報管理に安心感のある業務フローである必要があります。自社でストレスチェックを行うこともできますが、その場合は情報管理に自信がないと、行うべきではありません。

もう一つが、高ストレス者の面談の希望についてです。本人が面談を希望すれば設定しなければなりませんが、できるならば「面談を希望しなかった」というエビデンスを残したいところです。

後になって、「本当は面談を希望したのに、もみ消された」といわれても、証拠がありません。面談を希望しなかった情報が残るようなシステムが理想的です。

 

5.ストレスチェックの実情を踏まえて、目的をどう考えるか

ストレスチェックは、セルフケアには一定の効果はあるかもしれませんが限定的です。コンプラアンスのみを目的とした実施になっていく印象があります。

ストレスチェック制度が施行され、初年度を終えようとしています。私もストレスチェックの実施責任者として経験させていただいていますが、想像していたのとも少し異なってきています。

高ストレス者の判定は想定通り、おおよそ10%程度でした。しかしながら実際に面談を希望する方は、そのうちの10%といったところでした。ですから100人の従業員がいる企業で1人いるかいないか、というのが実情でした。

その一方で、確かにセルフケアには一定の効果があります。希望者が面談されて、セルフケアの促しにつながったケースもありました。

ですが面談希望をすると会社に個人情報が開示されることもあり、切迫感のない方が多い印象でした。もしくは、以前から不調がみられている方がストレスチェックを機会に面談希望されて、産業医面談の場でガス抜きをするということが多かったです。

そのような実情を踏まえたうえで、会社としてどのような目的でストレスチェックを行っていけばよいのでしょうか。現実的には、

このどちらかになるかと思います。そして多くの企業が、後者のコンプライアンスのみという形を選ばれるように思います。それでも一定のセルフケアとしての意味はあるかもしれませんが、企業のメンタルヘルス対策としての効果は限定的になってしまうように思います。

そのように考えたときのストレスチェックサービスの選び方に関しては、「ストレスチェック外部委託業者の比較・選び方(費用とサービス)」をご参照ください。

 

6.私がストレスチェック制度に期待すること

従業員が産業医という存在を認識する機会となり、また企業が産業医の重要性と有用性を認識する機会となれば幸いです。

このように実情も踏まえると、ストレスチェック制度にはあまり多くを期待できないかもしれません。

某大手医師ポータルサイトのアンケートでは、ストレスチェック制度にネガティブな意見をもっている産業医は60%以上となりました。メンタルヘルスを苦手としている産業医も含まれてはいますが、それでも多くの産業医がストレスチェックを生かせていない事実があります。

それは制度としてのもんだいもあるのですが、私がこの制度に期待するのは、そもそも産業医という存在が認識されることです。

従業員の方と話をすると、「産業医なんているんだ~」と産業医の存在を知らないこともあります。産業医が来ていることを知っていても、「産業医って会社の医者でしょ」「産業医に相談しても何もかわらない」と期待されていないことが多いです。

ストレスチェック制度は、希望があれば医師(産業医)の面談をうけられるということを伝えることで、産業医という相談窓口があることを知っていただく機会になればと思います。できれば産業医の窓口をオープンにし、相談の敷居を下げられたら理想です。

そして企業側も、産業医の意味合いについて見直す機会になれば幸いです。ストレスチェックに限らず、産業医は第三者として、従業員の方と会社の間に入ることができます。情報コントロールしながら、調整をすることができます。

そのために産業医は、労務管理と健康管理をしっかりと問題を分ける必要がありますし、コミュニケーションをうまくとれなくてはなりません。

メンタル不調者は、対応を失敗すると長期休職となってしまうこともあります。今回のストレスチェックを機に、産業医についても考える機会にしていただけると幸いです。

産業医について詳しく知りたい方は、「産業医の選任にあたって、産業医の上手な選び方」をお読みください。

そして産業医自身も、今回のストレスチェック制度を受けて、メンタルヘルスに関する知識をつけなければいけないと意識付けられたかと思います。

実際にはそれを放棄し、ストレスチェック実施者にはならないと拒否されたり、リスクが増えるといって追加料金をとる産業医もいました。それは裏を返せば、メンタルヘルスに関する知識の重要性を認識したことになります。そういった方の防衛機制が正しい方に向くことが望まれます。

 

まとめ

ストレスチェックはもともと、従業員のセルフケアの促しと職場環境改善を目的とされました。実際にストレスチェックを実施してみると、職場環境改善として具体的なアクションを起こすことは難しいです。

セルフケアに入っての効果はありますが限定的で、今後おそらく、コンプライアンスのみという制度になりそうな気がしています。

ですがストレスチェック制度によって、産業医に対する認識が高まる機会にできれば幸いです。