シクレスト舌下錠(アセナピン)の効果と特徴

アイコン 2016.3.20 シクレスト
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シクレスト舌下錠(一般名:アセナピン)は、第二世代の抗精神病薬(統合失調症治療薬)になります。

アメリカでは2009年8月からサフリス錠として発売されています。日本でも認可がおりて2016年5月26日、シクレスト舌下錠として発売されました。

シクレストは様々な受容体に作用するMARTAの分類で発売されますが、ドパミン遮断作用も強く、その効果はSDAに近いところもあると考えられます。

ここでは発売に先駆けて、シクレストがどのようなお薬なのかお伝えしていきたいと思います。幸いなことに、私の施設ではシクレストの臨床試験を行っていました。

ここではその印象も含めて、新しい抗精神病薬であるシクレストについてお伝えしたいと思います。

 

1.シクレストとはどんな抗精神病薬なのか?

舌下錠であることと、様々な受容体に強く作用するという特徴があります。

アセナピンは非定型抗精神病薬として、2009年にアメリカのFDA(公的機関)で認可されているお薬です。アメリカではサフリス錠(saphris)という商品名で発売されています。ヨーロッパではシクレスト錠(sycrest)として発売されており、日本でもシクレスト錠として発売されました。

シクレストの特徴は、大きく2つあります。

シクレストは、これまでの抗精神病薬にはなかった舌下錠という剤形で発売されます。舌下錠とは、錠剤を飲みこまずにベロの下に置いておきます。すぐに溶けて、口の粘膜から一気に吸収されます。舌下錠にすることで、作用のスピードと吸収効率が大きく変わります。

通常の錠剤との大きな違いは、肝臓を通るかどうかです。肝臓ではお薬の分解をしてしまうので、通過すると効果が減弱してしまいます。(初回通過効果)このため、シクレストは効果が早く、しっかりと効率よく作用するお薬です。

 

また、シクレストのもう一つの特徴は、いろいろな受容体に強く作用することです。MARTA(多元受容体標的化抗精神病薬)に分類されます。しかしながらドパミン遮断作用が強く、SDA(セロトニン・ドパミン遮断薬)に近い部分も持ち合わせています。MARTAとSDAの中間のようなお薬でしょう。

このためシクレストでは、気持ちを落ち着ける鎮静作用が期待できますが、眠気をはじめとした副作用もみられます。臨床試験では、医師も患者も本物の薬と偽物の薬を分からないようにして行っていきますが、本物の薬でしたら眠気が出てくることが多いので何となくわかりました。

このようなお薬ですが、MARTAの中ではシクレストは副作用が少ないお薬です。ドパミン遮断作用が強いため、有効量まで使っても他の受容体への影響が少なくて済むからです。

それでは、MARTAがどのようにして統合失調症に効果があるのか、そしてシクレストにどのような作用の特徴があるのかお伝えします。

 

2.シクレストの作用の仕組み(作用機序)

ドパミンD受容体やセロトニン2A受容体をはじめ、様々な受容体を全体的に遮断するお薬です。全体的なバランスによって、ドパミンの働きを整えます。幻覚や妄想などの「陽性症状」と意欲減退や感情鈍麻などの「陰性症状」を両方改善していきます。

統合失調症では、脳内のドパミンに異常があることが分かっています。

ドパミンが過剰に分泌されると、陽性症状とよばれる幻覚や妄想などが起こります。脳の中でも「中脳辺縁系」と呼ばれる部分で、ドパミンが過剰になっています。

一方で「中脳皮質系」という脳の部分では、ドパミン分泌が落ちています。やる気が起こらない、集中できないなどの陰性症状は、このドパミンの減少が原因となって生じます。

 

統合失調症の目立つ症状は幻覚や妄想といった陽性症状ですから、まずはドパミンをブロックするお薬が開発されました。確かにドパミンをブロックしてしまえば陽性症状は改善が期待できますが、陰性症状には効果が期待できませんね。

そこで注目されたのが、中脳辺縁系以外でドパミンを抑制する働きをする「セロトニン」という物質です。このセロトニンをブロックすると、中脳辺縁系以外のドパミンの量を増やすことができます。

シクレストは、いろいろな受容体に強く結合して、その作用をブロックするお薬です。ドパミンD受容体とセロトニン2A受容体はもちろんのこと、ヒスタミン受容体やα1受容体などに作用してブロックします。このため、MARTA(多元受容体標的化抗精神病薬)と呼ばれています。

これらの受容体へのバランスによって、陽性症状にも陰性症状にも効果が期待できるお薬です。

 

3.シクレストの効果と特徴

まずは、シクレストの作用の特徴を現時点でわかっていることをお伝えしたいと思います。実際のところは本格的に使い始めてみないとわかりません。発売されてから適宜修正していきたいと思います。専門用語も出てきますが、後ほど詳しく説明していますので、わからないところは読み飛ばしてください。

シクレストの効果は、ドパミンとセロトニンに対する作用によってもたらされます。

シクレストでは、「D2遮断作用<<セロトニン2A遮断作用」となっています。

 

抗精神病薬は、他の受容体にも作用してしまいます。ほとんどが副作用となってしまいます。シクレストのそれぞれの受容体への作用と副作用の関係は以下のようになります。

これをみると副作用が非常に多い薬にみえるかもしれませんが、シクレストはむしろ副作用が抑えられているお薬です。デメリットのところでその理由をお伝えします。それでは、シクレストの特徴をメリットとデメリットに分けて整理してみましょう。

 

3-1.シクレストのメリット

シクレストの特徴は、その強力なドパミンD受容体遮断作用です。シクレストはドパミン受容体に強力に結合して、その効果は持続します。このため、幻覚や妄想などの陽性症状に対してしっかりとした効果が期待できます。

それだけでなく、気持ちの高ぶりを抑える鎮静効果がある程度期待できます。興奮や衝動性が高まっているときに使うと、落ち着かせることができるでしょう。このため海外では、統合失調症以外にも躁症状に適応が認められています。

また、セロトニン2A受容体遮断作用があるので、陰性症状にも効果が期待できます。不安やうつ症状にも改善効果が期待されています。セロトニン2A受容体遮断作用は睡眠を深くする効果があるので、熟眠効果も期待できます。

さらにシクレストは、抗コリン作用がほとんどないお薬です。このため、口の渇きや便秘などの副作用が少ないお薬になります。また、後述しますが、体重などの代謝への影響は比較的少ないお薬です。慎重に使う必要がありますが、MARTAの中では糖尿病にも使える唯一のお薬です。

舌下錠というのもユニークです。アメリカで発売されているサフリス錠では、ブラックチェリー味がするとのことです。日本では味がしないように作られています。後述しますが、血中濃度の立ち上がりが早く、効果は早いと考えられます。

 

3-2.シクレストのデメリット

シクレストは様々な受容体に強く作用するので、副作用が多いように思われるかもしれません。しかしながら相対的にみると、ドパミン遮断作用が強いお薬です。このため有効量までシクレストを使っても、他の受容体への影響は少なくてすむのです。

このためシクレストは、それぞれの受容体の作用の強さの割には全体的に副作用が少ないです。このようにシクレストは、MARTAの中ではドパミンD2受容体遮断作用が強いお薬です。

このため、錐体外路症状が認められることがあります。錐体外路症状とは、運動の調節をしている黒質線条体でのドパミンが足りなくなる作用で、パーキンソン病に似た症状がでてきます。

具体的には、ふるえ(振戦)、筋肉のこわばり(固縮)、ソワソワ感(アカシジア)、眼球上転や筋肉の異常な収縮(急性ジストニア)などがあります。その中でも、アカシジアの報告が多いです。

同じドパミン不足による副作用として高プロラクチン血症がありますが、シクレストではあまり認められません。

 

抗α1作用や抗ヒスタミン作用の強さは、副作用につながります。

抗α1作用は血管の調節に関係しているので、めまいや立ちくらみ(起立性低血圧)、射精障害などが認められることがあります。

また、抗ヒスタミン作用が強いため、眠気が強いお薬です。食欲に関しても多少は増加しますが、その他の受容体の働きなどを総合的に見ると体重増加はそこまで認められません。リスパダールと比較しても、体重増加は少なかったという報告があります。

シクレスト特有の副作用としては、口の痺れがあげられます。口の感覚の神経伝達をブロックしてしまうことで、口の中の感覚が無くなってしまったり痺れてしまうことがあります。

また口腔内で溶けるのを待たなければいけないのですが、苦みが強いお薬でもあります。ですが薬を飲むときだけの苦みで、睡眠薬のアモバンルネスタのように一日続く苦みではありません。

 

4.シクレストの作用時間と使い方

シクレストは最高血中濃度到達時間が1時間、半減期が24時間の非定型抗精神病薬です。1日2回で10mg/日から開始し、最大20mgまで使えます。

シクレストは、舌下錠で使っていくお薬です。ベロの下に置いてるとすぐに溶けて、完全に吸収されるまで10分待つ必要があります。

ですがシクレストは、ベロの下でなくても口腔粘膜ではどこからでも吸収されます。ですから、バッカルといって頬に挟み込んだりしても大丈夫です。吸収に関しても、2分で80%、5分で90%吸収されることがわかっています。ご自身のペースで服薬に慣れていきましょう。

シクレストを服用すると、1時間で血中濃度がピークになります。そこから少しずつ薬が身体から抜けていき、24時間ほどで血中濃度が半分になります。

この血中濃度がピークになるまでの時間を「最高血中濃度到達時間」、血中濃度が半分になるまでを「半減期」といいます。

 

シクレストは効果が早く、持続するお薬といえます。このため、1日1回の服用でも効果は期待できますが、1日2回の服用が推奨されています。1日2回の服用の方が血中濃度が安定するので、副作用も軽減されます。

後述させていただきますが、日本では統合失調症のみに適応が認められています。シクレストの用法は、1回5mg(1日10mg)から開始して、20mgまで増量可となっています。

アメリカでは双極性障害にも適応が認められていますので、参考までにアメリカでの用法を以下にまとめておきます。

 

5.シクレストの薬価

シクレスト錠の最高用量20mgまで使うと、自己負担3割の患者さんで1ヶ月3699円となります。

それでは、シクレストの薬価についてみていきましょう。

<先発品>

商品名 剤形 薬価
シクレスト舌下錠 5mg 274円
シクレスト舌下錠 10mg 411円

シクレストは最近発売されたばかりのお薬なので、ジェネリックが発売されるまでには時間がかかります。

シクレスト錠は、普通の錠剤は発売されていません。舌下錠という特殊な錠剤で、錠剤を飲みこまずにベロの下に置いておきます。すぐに溶けて、口の粘膜から一気に吸収されます。

シクレスト錠は20mgまで使えます。このため最高用量を使うと、自己負担3割の患者さんで1ヶ月3699円となります。

 

6.シクレストとその他の抗精神病薬の比較

シクレストはドパミンやセロトニンに対する作用だけでなく、抗α1作用や抗ヒスタミン作用も認められます。これらの受容体のうち、シクレストは相対的にはドパミンに強く作用するので副作用が少ないです。

抗精神病薬を受容体作用のKi値に基づいて比較しました。

現在日本で発売されている抗精神病薬の作用を比較して、それぞれのお薬の位置づけを考えていきましょう。

まずは、第二世代の非定型抗精神病薬から処方されることが一般的になっています。陰性症状への効果も期待できますし、何よりも副作用が軽減されていて患者さんへの負担が少ないからです。非定型抗精神病薬には、大きく3つのタイプが発売されています。それぞれの特徴をざっくりとお伝えしたいと思います。

非定型抗精神病薬がしっかりと効いてくれればよいのですが、効果が不十分となってしまうこともあります。急性期の激しい症状を抑えるためには、定型抗精神病薬の方が効果が優れています。また、代謝への影響は定型抗精神病薬の方が少ないです。

定型抗精神病薬は、セレネースの系統とコントミンの系統の2つに分けることができます。

シクレストは、非定型抗精神病薬のMARTAに分類されます。他のMARTAと比べるとドパミンとセロトニン遮断作用が強く、SDAに近いお薬といえます。

シクレストは様々な受容体に強く作用しますが、相対的に見るとドパミン遮断作用が強いお薬です。このため過剰なドパミンをしっかりブロックしながらも、他の受容体への影響が少ないお薬です。全体的には副作用が少ないのです。

ジプレキサやセロクエルほどの鎮静作用はないけれども、幻覚や妄想にはしっかりとした効果が期待できます。シクレストは、MARTAとSDAの中間のようなお薬になります。ざっくりとした印象でMARTAを比較すると、以下のようになります。

 

7.シクレストの適応疾患とは?

<適応>

<適応外>

統合失調症に対しては、幻覚や妄想などの陽性症状が激しい時に効果が期待できます。また、鎮静作用もあるので、興奮が強まっている方にも効果があると思われます。

またシクレストは、気持ちを落ち着かせる鎮静作用が強いため、躁症状による興奮を鎮めることができます。躁症状がみられるときは、中脳辺縁系という部分でドパミンの過活動が起こっていると考えられています。シクレストによってドパミンをブロックすることで、効果が期待できます。

このためシクレストは、海外では統合失調症と双極性障害Ⅰ型での躁症状に適応が認められています。日本では認められていないのですが、シクレストを使い慣れてくると適応外で使われることもあるでしょう。

 

8.シクレストが向いている人とは?

シクレストの特徴は、「ドパミンをはじめとした様々な受容体を強く遮断すること」です。このため、抗幻覚妄想作用が強く、ある程度の鎮静作用も期待できるお薬です。この特徴を踏まえて、どのような方に向いているのかを考えていきましょう。

シクレストはドパミンを強力にブロックするので、幻覚や妄想などの陽性症状に対する効果が優れています。このため、急性期の統合失調症の患者さんにはよく効くお薬です。また、ある程度の鎮静作用も期待できます。そこまで激しくはないけれども、落ち着かない患者さんには向いていると思われます。

ジプレキサやセロクエルでは代謝に悪影響を及ぼし、糖尿病に対して使用が禁忌となっています。シクレストは体重をはじめとした代謝への影響が比較的少なく、糖尿病でも使うことができる唯一のMARTAになります。もちろん慎重に使っていく必要がありますが、MARTAを使いたいけど糖尿病が疑われる方には向いているでしょう。

さらにシクレストでは、情動安定作用が報告されています。幻覚や妄想が落ち着いてくると、抑うつや意欲低下が認められることがよくあります。このような患者さんに対して、シクレストは効果が期待出来ます。

慢性期の統合失調症の患者さんで身体の病気を合併している方にも向いているかもしれません。シクレストは、同じMARTAのジプレキサやセロクエルと比べると、体重増加をはじめとした代謝系副作用が少ないです。例えば、ジプレキサは良いのだけれども体重増加がネックになってしまった方には向いているでしょう。

また、これまでの抗精神病薬にはない舌下錠という剤形で発売になります。舌下錠であれば薬を飲みこむ必要はないので、薬を飲みこむのが苦手な方や、嚥下機能が落ちてしまっている方には向いています。

一方で、舌下錠なので飲み方をちゃんと理解出来る方である必要もあります。急性期の患者さんで病識(病気という認識)がない方には使いにくいですし、他に飲み薬がある方には煩わしく感じてしまうかもしれません。

発売されて実際に患者さんに使っていく中で、シクレストの使い勝手がわかってくると思います。新しいことがわかってきてましたら、加筆訂正していきたいと思います。

 

まとめ

シクレストの作用の特徴は、「ドパミンをはじめとした様々な受容体を強く遮断すること」です。

ドパミンD受容体遮断作用<<セロトニン2A受容体遮断作用となっています。

シクレストのメリットとしては、

シクレストのデメリットとしては、

シクレストが向いている方は、