タミフルで恐れられる異常行動とは?

アイコン 2016.1.26 タミフル

インフルエンザと診断されて処方されたタミフル。どんな薬だろうと思って何気なく調べてみると、「異常行動」という怖い文字が出てきます。

タミフルと異常行動は、10代の患者さんを中心に認められた予期しない副作用です。センセーショナルに報道されたため、ご記憶がある方もいらっしゃるかもしれません。

タミフルの異常行動は実際のところ、どのようなものでしょうか?
タミフルの異常行動に対して、どのようなことに気を付ければよいのでしょうか?

ここでは、そんな怖いタミフルの副作用「異常行動」について、どういう背景があり、どう考えていけば良いか取り上げたいと思います。

 

1.タミフルによる異常行動とその原因は究明されたのか?

タミフルでは、予期していなかった副作用として「異常行動」が認められました。10代の患者さんが命を落としてしまったのです。まずはタミフル開発の経緯と異常行動、その原因究明がどうなっているのかみていきましょう。

 

1-1.タミフルによる異常行動の経緯とは?

2007年にタミフルを服用した10代の患者さんが飛び降り自殺したことを契機に、複数の10代患者さんの飛び降りを認めた事が始まりです。

1990年代まではインフルエンザと診断するのも困難でした。治療に関しても、ゆっくりお家で療養するか、一部のインフルエンザに効くシンメトレルを内服するかしかなく、多くの人が耐えるしかない病気だったのです。

インフルエンザの特効薬が発売されたのは、2000年のリレンザからです。2001年にはタミフルが登場し、またこの頃インフルエンザの簡易検査キットも登場して、インフルエンザの治療は加速的に発達しました。特にタミフルは内服するだけで治るため、新聞では夢の薬と高い注目をあびていました。

そんな中、2007年2月に入りタミフルを服用したとみられる10代のインフルエンザ患者が、自宅で療養中に自宅マンションから転落死するという痛ましい事例がありました。2 月28日、厚生労働省は医療関係者に注意喚起を行いましたが、3月20日にタミフルの服用後に10代の患者様が2階から転落して骨折したとする症例が2例報告されました。

このことは当時新聞の一面でとりあげられ、一気に世論は「タミフルは怖い薬かもしれない」として報道されました。この事例をうけて、原因不明であるが異常行動を認めるため、重症例を除いては10代では使用を控えるように注意喚起されるようになったのです。

 

1-2.タミフルの異常行動の原因とは?

この事故を受けて様々な研究がなされました。しかし具体的な原因は発見されませんでした。

厚生労働省はこの事例を受けて製薬会社に原因を突き止めるように指示がでました。

薬が市販される前には、まずはじめにマウスを使って実際に効果があるのか、またその副作用について調べることが通例です。

しかしマウスの脳内でタミフルが増加してどういう悪さをするか、確証できた実験はありませんでした。むしろ脳内でタミフルの濃度が増えない、異常行動は起こしえないと結論付けられたものばかりでした。(ある条件下のマウスでは脳内のタミフルの血中濃度が増えたともありますが、難しい話になるためここでは割愛します。)

ただしこの結果では、タミフルで異常行動が引き起こされる原因が分からなかったとしか言えず、タミフルが異常行動を起こさない証明にはなりません。

またこの異常行動はインフルエンザ脳症自体でも認めることから、タミフルの副作用ではなく、「インフルエンザが悪くなって飛び降りたのでは?」という意見も多く出ました。

 

そういった報告を受けて厚生労働省が調べたところ、何らかの異常行動ととれる変わった行動があった患者さんは、タミフル投与群で11%(840/7438例)であったのに対して、タミフルを投与していなかった群は13%(286/2228例)となり、むしろタミフルを投与したことによってインフルエンザ脳症による異常行動を抑えたということになります。

しかし事後報告のしっかりした検査とは言えないとしてこれをもって白とは言えないという意見もあり、タミフルの潔癖は証明されませんでした。

 

2.今日までのタミフルの扱い

10代に限って言えば慎重投与という扱いになってます。実際に10代に数%しか使われておりません。しかしそれ以外の世代では幅広くタミフルは処方されております。

2016年のタミフルの添付文章では、

10歳以上の未成年の患者においては、合併症、既往歴等からハイリスク患者と判断される場合を除いては、原則として本剤の使用を差し控えること。

と書かれています。現在は他のインフルエンザの治療薬もでてることから、まず10代に使用することはありません。ただしこの処置は日本のみです。海外では普通に10代でも処方されています。

また日本でも、もっと小さいお子さんにはタミフルはドライシロップとして処方されています。他にもインフルエンザ治療薬は3剤ありますが、2剤が吸入薬で1剤が点滴薬であり、小さいお子さんの場合には投与が難しいためです。

以上のように、今日までタミフルの異常行動の位置づけは「白に限りなく近い灰色」です。完全に白といえないことから、10代に限っては使用を差し控えられています。

しかし実際には、他のインフルエンザ薬、また他の年齢でも、異常行動の事例は頻回に報告されています。こういった報告を踏まえ、タミフルの10代に限った制限が良いかどうかは今も議論の的となっています。

他の薬剤を見ても、特定の年代のみに制限をかけるお薬はタミフルしかなく、過剰に反応しすぎなのではという意見が多いからです。いずれタミフルが完全に白になる日が来るかもしれません。

 

3.タミフルの異常行動とはどんな行動か?

他の人から見て意味不明な言動や行動とされています。しかし、実際には色々な行動がみられるとされています。

異常行動って怖いなぁってイメージが先行しますが、具体的にはよくわからないですよね。厳密な定義はないですが医療の現場では以下の6つの行動を示します。

  1. 人が正しく認識できない(両親を見ても知らない人という)
  2. 食べ物と食べられるか物の判別ができない(自分の手を噛んでしまう)
  3. 幻視、幻覚を訴える(アニメのキャラクターや動物が見える)
  4. ろれつが回らない(意味がよくわからない言動を発したり、うなっている)
  5. 恐怖感情を訴える(突然怖がり出す)
  6. 急に怒り出したり、泣き出す(急に走り出したり、物を壊しだす)

10代に発症されたことから子供目線なものが多いですが、大人でも異常行動は報告されています。これらの行動は、後から本人に聞いても覚えてないことが多いです。

実際にタミフルを飲んで飛び降りて骨折した症例を見ても、

症例1

深夜、1 階で母親とともに就寝。約30分後、突然2階に駆け上がったが、母親が連れ戻す。その後、もう一度2 階に駆け上がり、母親が追いかけたが間に合わず、ベランダから飛び降りる。本人はその時の記憶はないとのこと。以前にも発熱にて寝ぼけて歩き回ることがあったとのこと。

症例2
深夜、素足で外に出て50mほど先の駐車場に向かって走り出す。父親が家に入れたが、そのまま2 階に走って行き、窓を開けて飛び降りた。寝ぼけた様子で土の上に座っており、応答ははっきりせず。入院後10時間後も独り言、突然笑い出すなどの症状が認められた。

となっております。ここにあげた2症例とも予兆なく突然起きており、他の症例もいきなり異常行動が認められたことが多いです。

 

4.タミフルに異常行動をどう考えればよいか

大切なことは、インフルエンザ自体で脳症が起こり、それによって異常行動が起こるということです。他の薬に代えたから防げるわけではないということを念頭に置きましょう。

ここまで読んでいただいた方は、タミフルは怖い薬だから飲みたくないと思うかもしれません。「白に近い灰色」って書かれてもピンときませんよね。「万が一異常行動が起きたらどうするんだ」「気をつけろって言われても・・・」と思うのが普通です。

大切なのは、

この点を踏まえて具体的にどうすればよいかを、医師の視点からアドバイスできればと思います。

すでにタミフルを処方されていて、後から調べて異常行動を知った患者さんや家族の方。このような方は、絶対にタミフルを内服すべきです。タミフルの異常行動は、確かに怖い副作用です。しかしながらインフルエンザ自体によって異常行動が生じることもあるのです。

原則的に処方箋を返品したりすることはできません。タミフルに関しては、異常行動の副作用を知らない医師はまずいません。そのこともふまえてタミフルを処方しているのです。インフルエンザの治療の基本は、早期発見・早期治療です。タミフルなどのインフルエンザ治療薬は、早めに使わなければ効果が薄れてしまいます。時間が経ってからタミフルを使っても、何のメリットもありません。

お子さんが心配なお母さんも同じです。他の薬に代えたから安心ということはありません。もう一回薬を変えようとする思いを、是非看病にあてて見守ってあげてください。大切なのはタミフルを飲んだかどうかではなく、異常行動が出たときにそばにいてあげることです。

 

では、これから薬を処方してもらう方はどうでしょうか。素直に心配な思いを口にした方が良いと思います。その時は、「タミフルは10代のみに異常行動の警告が出ているのは知っているのですが、やはり心配です。」と聞いてみましょう。

医師の立場からすれば、あえて患者さんが嫌がるものを使うことはないので、吸入ができないなどの理由がなければ他のインフルエンザ治療薬を処方してくれるでしょう。

 

まとめ