スピリーバの前立腺肥大と緑内障での安全性

アイコン 2016.8.20 スピリーバ

スピリーバは、COPDの第一選択肢として多くの方に処方されているお薬です。

スピリーバは気管支を拡張することで、タバコでボロボロになった肺を支えるお薬です。しかしながらスピリーバは、

この2つの疾患がある人は禁忌となっており、スピリーバは使用できません。どのような緑内障や前立腺肥大症の方が使用できないのでしょうか?

ここでは、これらがどんな疾患なのかも含めて、スピリーバを安全に使用するための注意点をお伝えしていきたいと思います。

 

1.スピリーバはどういった人に使用できないのか?

スピリーバは、緑内障と前立腺肥大症の方は注意が必要です。

スピリーバの添付文章では、

  1. 閉塞隅角緑内障の患者[眼圧を高め、症状を悪化させる恐れ]
  2. 前立腺肥大等による排尿障害のある患者[更に尿を出にくくすることがある]
  3. アトロピン及びその類縁物質あるいは本剤の成分に対して過敏症の既往歴のある患者

この3つに関しては禁忌になっています。③は薬に対してアレルギーが起こった人は使えないということですが、これはすべての薬で記載されていることです。つまり、

この2つの病気をお持ちの方は注意が必要です。とはいっても、この病気だったら全ての人が禁忌なのかというと、そうではないのです。それぞれ条件があり、軽症であれば使用できる場合もあります。

スピリーバを吸入する方の多くは、高齢者の方が多いかと思います。緑内障も前立腺肥大症も、高齢者には多い病気です。人によっては指摘されてなくても、実はこれらの病気が隠れている可能性があります。それぞれ後述するので、症状で思い当たる節がある人は注意してみてください。

その他スピリーバで慎重投与とされているのは、

  1. 心不全、心房細動、期外収縮の患者、それらの既往歴のある患者[心不全、心房細動、期外収縮が発現することがある]
  2. 腎機能が高度、あるいは中等度低下している患者[本剤は腎排泄型で、腎機能低下患者では血中濃度が上昇する]
  3. 前立腺肥大のある患者[排尿障害が発現する恐れ]

③の前立腺肥大は、症状がなくても注意が必要ということです。①の心疾患ですが、スピリーバに適応があるCOPDの患者さんでは、心臓がへばっていて心不全になっている可能性が高いのです。

COPDは肺がタバコでボロボロになった病気です。これによって息が思いっきり吐けなくなります。息が吐けなくなった分頑張る臓器は心臓です。心臓は肺がやられた分、一生懸命動いて酸素を供給しようとします。

しかし心臓は休むことができません。24時間、常に動き続けています。一生頑張り続けなければいけないので、COPDの人の心臓はへばり気味です。ですからCOPDの人の心臓は、心不全といって心臓のポンプ機能が弱ってる可能性があります。

心不全かどうか一番わかりやすいのは、むくみです。特に足を押してみて、むくみが分かる人は注意が必要です。COPDの人は一度チェックしてみましょう。

特にCOPDが最重症の場合は、ほぼ心不全は必発です。だからといってスピリーバを使わないと、呼吸状態が悪くて心臓への負担が続いてしまいます。COPDに心不全がある人はスピリーバを避けるのではなく、逆に積極的に使用する必要があります。

 

腎不全でも、スピリーバは注意喚起されています。スピリーバの主成分であるチオトロピウムを腎不全と健常者に注射で投与したところ、健常者に比べると腎不全の方は血中濃度が1.5倍に上昇したと報告されています。

しかしスピリーバは、吸入することで効果を発揮するお薬です。スピリーバを吸入することでの全身への影響は、注射で投与するよりはるかに少ないです。

実際にスピリーバ5μgを吸収したときに、血中濃度は1時間後に最高血中濃度の20pg/mlになるといわれています。このpgという単位ですが、100万pg=1μgとなります。つまり20pgは本当に微量な量です。この微量な量が1.5倍に血中濃度が上がるとしても、微々たる量のためほぼ問題になりません。

そのため、禁忌である緑内障と前立腺肥大症の2つの疾患を注意しましょう。

 

2.スピリーバで使用できない緑内障とは?

緑内障は、眼圧が上がることで視界がぼやけたり頭痛がでる病気です。緑内障の中で、隅角緑内障の人が使用できません。

まず緑内障について知っておきましょう。

 

2-1.緑内障ってどんな病気?

緑内障とは、目で見たものを脳に伝える視神経に異常が起こることで、視野や視力に障害が起こる病気です。実は日本では非常に多い病気で、40歳以上では20人に1人が緑内障というデータもあります。さらには、失明の原因も第一位の疾患です。

この緑内障は、眼圧が上がることが特徴の病気です。目の中の圧が上がることで視神経を圧迫し、症状が出現します。目の中は房水眼圧の正常値は10~21mmHgで、これを超えると高眼圧といいます。眼圧が高くなるのは、目の中の液体である房水の量が増えたことを意味します。房水が増えて圧が上がる原因として、

  1. 房水の産出が増えた
  2. 房水の排出する通り道が狭くなって排出が減った

の2つが挙げられます。眼圧により視神経が押されて萎縮します。一方で眼圧が正常でも、視神経がもろくて正常の圧力に耐えられない場合も緑内障になることが分かってます。特に正常な眼圧の緑内障が、日本人には多いことが分かっています。

つまり緑内障の場合、眼圧が正常なら安心というわけではなく、視神経の状態および症状で診断します。緑内障の症状としては、

  1. 視野の一部が見えなくなる視野欠損
  2. 視野が全体ぼやける視力低下
  3. 眼圧上昇で目の痛み
  4. 眼の充血
  5. 眼圧上昇での頭痛・吐き気

などがあります。最初は視力の一部が欠損することから始まります。しかし目は両方あるため、片方の一部の視野が欠損してももう一つの目が補って気が付かないことが多いのも事実です。

 

2-2.スピリーバで隅角緑内障で使用できない理由とは?

房水の通り道である隅角が狭くなることで、房水が排出ができなくなる病気です。抗コリン薬であるスピリーバは、この隅角をさらに狭めてしまうため隅角緑内障には使用できません。

房水の排出は、目の端である隅角を通過して排出されます。隅角緑内障は、この隅角が狭くなることで房水が渋滞を起こし、その結果として眼圧が上昇することで緑内障を発症するタイプです。

一般的に狭いまま放っておくと、どんどん眼圧が上がって症状が強くなってしまいます。そのため、点滴や内服、点眼による薬物治療と、隅角とつながっている光彩にレーザーで穴をあけて房水の通り道を広げるなどの治療をすることが一般的です。

この隅角とつながっている光彩に、スピリーバの主成分である抗コリン薬は作用します。スピリーバによって虹彩の瞳孔括約筋が弛緩して、隅角がさらに狭くなってしまいます。さらに狭くなって房水が通れなくなると、急激に眼圧が上がってしまいます。最悪の場合、緑内障が悪化して失明にもつながります。

そのため、隅角緑内障の方にはスピリーバは使用できないのです。一方でスピリーバは、眼圧が正常な緑内障、眼圧が高くても隅角が狭くない開放型緑内障の人には禁忌ではありません。むしろ隅角は関係ないので、安心してスピリーバは使用できます。

隅角緑内障は比較的頻度も少なく、日本人では10%といわれています。しかし先ほど記載したように、もし隅角緑内障に使用してしまうと失明につながりかねません。そのため、スピリーバを緑内障の方に使用する場合は、最低隅角が問題ないか確認する必要があります。

また、隅角緑内障と診断されていないけど実は隅角が狭い人もいらっしゃいます。上にあげた症状がある人は、スピリーバを吸入する前に一度眼科で隅角を調べてみましょう。

 

3.スピリーバが使用できない前立腺肥大症とは?

男性特有の前立腺が肥大することで、尿道が狭くなったり膀胱を圧排する病気です。スピリーバの作用で膀胱の収縮力が低下し、症状が出現することがあります。

前立腺肥大がどんな病気か含めて、一度確認してみましょう。

 

3-1.前立腺肥大症ってどんな病気?

前立腺肥大症とは、膀胱の下にある前立腺が肥大して尿道を圧迫し、排尿障害を起こす病気です。

前立腺肥大症は、男性では50歳で30%、60歳で60%、70歳で80%、80歳では90%にみられます。つまり高齢ですと、ほぼ必発で起きる病気です。上にあげた症状に心当たりがあるご高齢の方は、前立腺肥大症がもしかしたら隠れているかもしれません。

具体的にどのような症状があるかというと、

などが挙げられます。これらは前立腺肥大の症状なのです。

一方で前立腺肥大は、最初は肥大すると膀胱を刺激する症状ですが、さらに悪化すると尿道が閉塞して尿が完全に出なくなってしまいます。尿は体の老廃物で、これを体外に排泄しているのです。それが出せずに体に逆流するということは、相当危険な状態といえます。こうなると緊急性を要する状態になります。

前立肥大症自体を詳しく知りたい方は、「前立腺肥大症とは?前立腺肥大症の症状と進み方」を一読してみてください。

 

3-2.排尿障害がある前立腺肥大症でスピリーバが吸入できない理由は?

スピリーバを吸入すると、どうして前立腺肥大症が悪化するのでしょうか?これには抗コリン作用が関係しています。抗コリン作用は膀胱の排出力を弱めるとともに、尿道を細く収縮し、尿の出を悪くする作用があります。前立腺自体を肥大する効果はありません。

潜在的に前立腺肥大症があった人が気が付かずにスピリーバを吸入することで、膀胱の収縮力が低下して症状が表に出てくるのです。

一方でスピリーバは、薬を吸って気管支に作用するお薬です。口腔内に関してはスピリーバが作用することで口渇の副作用が生じやすいですが、気管支からスピリーバの成分が吸収されて膀胱にまで作用する量は微量といわれています。

そのため軽度の前立腺肥大症であれば、COPDの症状を考慮してスピリーバを投与することがあります。先ほど記載したように前立腺自体を肥大させるお薬ではないため、もし排尿障害が悪化したらスピリーバを中止すれば一般的には良くなります。

一方で排尿障害出現した場合の対策は、日常生活だけではなかなか難しいです。そのため、前立腺肥大のお薬を内服するのが一般的です。前立腺肥大症のお薬としては、

  1. αアドレナリン受容体遮断薬(α遮断薬)
  2. 5α還元酵素阻害薬(抗男性ホルモン薬)
  3. PDE5(ホスホジエステラーゼ5)阻害薬

などがあります。

この中で最もよく使うのがα1遮断薬です。α受容体遮断薬は、前立腺肥大症に伴う排尿困難の薬として、現在最も多く使われる内服薬です。前立腺平滑筋にあるα1受容体を遮断することで前立腺の筋肉を弛緩させ、その結果として、前立腺の尿道に対する圧迫を軽減します。

α1受容体遮断薬は、

などが一般的です。これらα1受容体遮断薬を内服していると、1週間以内で症状改善効果と満足度が得られます。さらにお薬を続けることで、継続投与における長期的な改善効果も示されています。

ただし、これらのα1受容体遮断薬を使用しても症状が改善しない、むしろ悪化したとなった場合は、すぐに医療機関を受診しましょう。α1受容体遮断薬が効かないほど前立腺肥大症が重症な場合は、尿閉になってしまう可能性があります。尿閉になると命にかかわってしまうため、非常に危険な状態です。

ですからスピリーバを使用する前から症状がある前立腺肥大症の人は、スピリーバを追加することで尿閉になり命の危険性があるため禁忌になっています。

抗コリン薬の排尿障害について詳しく知りたい人は、「尿が出にくいのは薬のせい?副作用での尿閉の原因と対策」を一読していてください。

 

4.スピリーバは妊娠中でも使用できるの?

スピリーバは、妊婦の方にも使用は禁止されていません。むしろ原疾患コントロールした方が、胎児にとってもよいです。

スピリーバは、2015年にスプレー式であるレスピマットが重症な喘息でも適応が通りました。それを受けて妊娠中の方にも、スピリーバを使用する方が増えています。実際にスピリーバは添付文章でも、

妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。[妊娠中の投与に関する安全性は確立していない。動物実験(ラット)で胎児に移行することが認められている。]

と記載されています。胎児に移行すると記載されると、ドキッとする人もいるかもしれません。しかしスピリーバは、吸入して気管支に直接作用させるお薬です。気管支から全身の血中に移行する濃度は微々たる量です。その微々たる量が胎盤を通過するにはもっと少ない量となるので、ほぼ問題はないと考えられています。

実際の喘息のガイドラインでも、妊娠中の喘息発症は17.1%とする報告もあり、しっかりと治療することの大切さがいわれています。喘息の悪化による母体・胎児の低酸素血症のほうが、赤ちゃんの成長に関与する危険性が高いのです。そのため妊娠中は、積極的な喘息管理が重要とされています。

特にスピリーバが妊婦さんに処方される場合、アドエアシムビコートなど吸入ステロイドとβ2の合剤でも喘息がコントロールできない重篤な方かと思います。妊娠中お腹が大きくなり、肺を圧迫することでさらに喘息が悪化する場合もあることを考慮すると、スピリーバが必要と判断された方は絶対に吸った方が良いでしょう。

 

まとめ

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