自律神経失調症に効果的な漢方薬とは?病院での自律神経失調症の漢方治療

アイコン 2016.9.21 心の病気と漢方
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漢方薬には、不安や緊張、興奮を和らげる効果が期待できるものもあります。このため、自律神経失調症の治療にも使われることがあります。

自律神経失調症では、抗うつ剤や抗不安薬を使って治療していくことが多いです。しかしながら自律神経失調症の患者さんは、精神科のお薬に抵抗がある方も少なくありません。

自律神経失調症は不定愁訴がみられる患者さんも多く、漢方薬による治療が強みを発揮することがあります。漢方薬だけを使っていくのではなく、抗うつ剤などのお薬と組み合わせて使われることもあります。

漢方は非常に奥が深く、漢方専門の病院もあります。そこでは漢方独特の診方で患者さんをみていきます。しかしながら自費診療になるので、どうしても金銭的には高くなってしまいます。

それに対して病院やクリニックでは、健康保険で漢方薬の適応が認められています。ここでは、自律神経失調症に効果のある漢方薬について詳しくみていき、病院での漢方治療についてお伝えしていきたいと思います。

 

1.自律神経失調症での漢方の位置づけ

自律神経失調症の治療では、抗うつ剤や抗不安薬による薬物療法を行っていくのが主流です。

それによって自律神経失調症による症状を軽減して、症状をコントロールできるようにしていきます。落ち着いてきたところで、原因となるストレスや生活習慣を振り返っていきます。

しかしながら自律神経失調症は、他の病気に比べると漢方薬が活躍することが多いです。というのは、漢方薬は不定愁訴や副作用の軽減に強みを発揮するためです。

自律神経失調症は自律神経のバランスが乱れていて、全身に様々な症状が認められます。漢方薬は身体のバランスの乱れを整えることで効果が認められるので、自律神経失調症の治療にも適しているのです。

漢方薬は、長年の経験の積み重ねで発展してきました。様々な生薬を組み合わせて調合されていて、それぞれの生薬にはちゃんと薬効があります。

ですから漢方薬にも、不安や恐怖を和らげる効果は期待できます。しかしながら薬のようにピンポイントで効くわけではないので、その効果には個人差があり、一般的に効果はマイルドです。

このため効果が一定せず、効果が発揮されるまでにも1ヶ月ほど時間がかかることも多いです。ですから、漢方薬を積極的に使うことは一般的ではありません。(私の腕の問題もありますが…)

お薬はしっかりと効いているけれども、自律神経症状が少しだけとれない…
お薬は続けたいけど、副作用がしんどい…

そんなときに、抗うつ剤と漢方薬を併用していくと治療の幅が広がることが多いです。このように使っていくことが、病院での自律神経失調症の漢方治療としては多いです。

漢方薬は、メインの治療としては力不足となってしまうことが多いです。しかしながら漢方薬は、精神科のお薬と組み合わせることで治療の幅を広げてくれます。さまざまな不定愁訴を和らげてくれたり、副作用を軽減してくれたりします。

 

2.自律神経失調症の治療に漢方薬を使う時の注意点

漢方薬は証を意識して選ぶ必要があり、人によって相性があります。「自律神経失調症だったらこの漢方薬」というものが決まっているわけではありません。

もっとも大事なことなので、具体的な話に入っていく前にお伝えしておきたいと思います。「〇〇は自律神経失調症に効く漢方薬」と聞くと、その漢方に飛びついてしまう方がたくさんいらっしゃいます。診察をしていても、「〇〇を下さい」と希望されることもあります。

漢方薬の考え方は、みなさんがもっている薬のイメージとは異なります。お薬は作用が決まっていて、病気の原因や症状をピンポイントでよくしてくれるものとイメージされているかと思います。病院でもらう、いわゆるお薬は、この考え方で作られています。

し かしながら漢方では、身体のバランスの崩れを考えて、全体的にそのバランスを整えるために薬を選択します。ですから漢方薬では、バランスの崩れ方が同じであれば、それが腹痛だろうが頭痛だろうが同じ漢方薬になります。そして漢方では、体質や身体の抵抗力なども含めて漢方薬を選んでいきます。

このように漢方では、体質・身体の抵抗力、身体のバランスの崩れ方などを「証」として診断していきます。それに基づいて生薬を配合して漢方薬として処方するのです。

 

ですから本格的な漢方病院や漢方薬局では、独自に生薬を配合していることも多いです。それに対して病院で使う漢方薬はエキス剤といわれていて、代表的な生薬の配合ごとに名前がつけられて商品となっています。

これらの漢方薬がどのような体質の方にあっているのか、ザックリとしたことは分かっています。そしてこの漢方薬ごとに、どの症状や病気に効くのかが知られています。

ですから病院では、患者さんの体質や抵抗力をみて証を判断し、症状に応じて漢方薬を使っているのが現状です。気血水などの身体のバランスの崩れを考える医師は、ほとんどいないでしょう。

なかには体質すら考えていないで漢方薬を処方しているケースもあります。この場合は誤治といって、副作用以前に身体に合わないということが起こります。漢方薬は証を意識して選ぶ必要があり、漢方薬の相性も人それぞれであるということを理解してください。

詳しく知りたい方は、「漢方の「証」とは?」をお読みください。

 

3.自律神経失調症で効果のある漢方薬

自律神経失調症では、気や血の異常があると考えます。体質やその他のバランスの異常も考えながら、適切な漢方薬を選んでいきます。

漢方では、自律神経失調症は気や血の異常と考えます。

「気」とは、生きていく上で必要なエネルギーのことです。生命の根源ともいえます。気が異常となる状態としては、大きく3つがあります。その中でも、気うつや気虚の状態が関係しているといわれています。

気の異常

気うつ(気滞) 気が上手く流れない状態
気虚 気の足りない状態
気の上衝(気逆) 怒りやストレスで気が上昇する状態

それぞれの異常で生じる症状は以下のようになります。

気うつ 抑うつ気分・呼吸困難・喉頭部違和感など
気虚 意欲低下・疲労感・だるさ・食欲低下・下痢など
気の上衝 頭痛・めまい・発汗・のぼせ感・イライラなど

「血」は私達を構成する水分のうち、赤い液体を表します。つまり血液および血液が運んでいる栄養分のことです。血が異常となる状態としても、大きく3つがあります。その中でも、瘀血や血虚が関係しています。

の異常

瘀血 冷えなどで血のめぐりが悪い状態
血虚 血が足りない状態
血熱 血に熱が入り、血行が加速している状態

それぞれの異常で生じる症状は以下のようになります。

の異常
(血液)
瘀血 頭痛、月経異常、肩こり、遷延する抑うつなど
血虚 貧血、めまい、動悸、不安、健忘など
血熱 不安、焦燥、のぼせ、イライラなど

気や血の異常を見ながら、それにあった漢方薬を選んでいきます。さらには体質もあわせていく必要があります。

「自律神経失調症にはこの漢方!」というものがあるわけではありませんが、自律神経失調症でよく使われる漢方薬を以下にご紹介していきます。主に精神症状に対して効果が期待できるものをお伝えしていきます。

桂枝加竜骨牡蛎湯

桂枝加竜骨牡蛎湯は、ストレスによって神経が高ぶったり消耗している状態に効果のある漢方薬です。自律神経失調症の不安が強く、神経衰弱している患者さんに使われる漢方薬です。

柴胡桂枝乾姜湯

柴胡桂枝乾姜湯は、不安へのとらわれが強く、動悸が激しい自律神経失調症の患者さんに使われます。体力が低下している方に向いていて、身体を温めてくれることで体力を補います。

柴胡加竜骨牡蛎湯

柴胡加竜骨牡蛎湯は、漢方薬の中では効果の強いものになります。比較的体力がある方に用いられる漢方薬で、虚弱体質な方には向きません。柴胡加竜骨牡蛎湯は、神経が過敏になっていて、動悸や不眠が強い自律神経失調症の患者さんに使われる漢方薬です。

半夏厚朴湯

半夏厚朴湯は、気がとどこおる「気うつ」の代表的な漢方です。何かが使えた感じがする時に効果的で、とくにヒステリー球とよばれる喉の違和感に使われます。息苦しさがあったり、胸や喉につかえがあるような自律神経失調症の患者さんに使われることが多いです。

加味逍遥散

加味逍遥散は、女性に使われることが多い漢方薬です。不安や緊張、イライラを鎮めるだけでなく、血のめぐりをよくします。このため月経トラブルや更年期障害にもよく使われています。体力が低下していて冷えのある、女性の自律神経失調症の患者さんに使われる漢方薬です。

加味帰脾湯

加味帰脾湯は虚弱な体質を改善して、貧血や心身疲労を改善させる作用があります。また、不安や緊張、イライラや抑うつなどを抑え、寝つきをよくしてくれます。疲労感が強い自律神経失調症の患者さんに使われる漢方薬です。

抑肝散

抑肝散は、イライラや興奮を抑える代表的な漢方薬です。神経の高ぶりを抑えてくれるだけでなく、筋肉の緊張もゆるめてくれます。自律神経失調症の患者さんでは、発作的な落ち込みや怒りによって興奮が強い方に使われます。

黄連解毒湯

黄連解毒湯には、神経が過敏な状態を鎮める効果が期待できます。比較的体力のある人が、イライラして不安や不眠が認められる時に使われます。

桂枝茯苓丸

桂枝茯苓丸は、女性ホルモンの関連する自律神経失調症によく使われます。身体を温め、気と血の巡りをよくしてくれることで、筋肉の緊張を取って気持ちも落ち着かせます。比較的体力がある人に向いている漢方薬です。

当帰芍薬散

当帰芍薬散は、女性ホルモンのバランスの乱れによる自律神経失調症に対して効果が期待できます。血の巡りをよくして、余計な水分を整えることで効果がみられ、妊娠中にも抗不安薬として使われることが多いです。

 

4.自律神経失調症の漢方薬の副作用

自律神経失調症に使われる漢方薬にも、副作用が認められます。誤治・アレルギー・生薬ごとの副作用があります。

漢方は、何種類かの生薬を合わせて作られています。生薬は自然界にある天然のものが由来です。ですから、「漢方薬は副作用がなくて安心」と誤解されていることが多いです。確かに漢方薬は副作用が少ない傾向があります。しかしながら全くないかというと、そんなことはないのです。

漢方薬の副作用としては、大きくわけて3つのものがあります。

漢方薬の副作用として最も多いのが誤治です。漢方では、その人の状態に対して「漢方薬」が処方されます。ですから状態を見誤って処方してしまうと、調子が悪くなってしまったり、効果が期待できません。このことを誤治といいます。

誤治では、さまざまな症状が認められます。これを副作用といえばそうなるのですが、その原因は合わない漢方薬を使ってしまったことにあります。これを無視して飲み続けると、バランスの崩れた悪い体質に変わってしまうこともあります。これを壊病といいます。

 

食べ物でもアレルギーがあるように、どんな生薬にもアレルギーがあります。アレルギーの症状としては、鼻炎や咳といった上気道症状、発疹や口内炎といった皮膚症状、下痢などの消化器症状などが見られることがあります。飲み始めに明らかにアレルギー症状が出ていたら、服用を中止してください。

 

そして、生薬自体の作用による副作用も認められます。生薬の中には、その作用が悪い方に転じて「副作用」となってしまうものもあります。

主な副作用として、食欲低下、発熱やじんましん、むくみ、動悸、不眠、血圧上昇などがあります。ごくまれではありますが、重大な副作用として間質性肺炎があります。

漢方薬の副作用について詳しく知りたい方は、「漢方薬で見られる副作用とは?」をお読みください。

 

5.自律神経失調症で漢方薬が使われるケースとは?

自律神経失調症を漢方薬だけで治療するには、力不足となってしまうことが多いです。不定愁訴を軽減したり、副作用を和らげるために漢方薬が有効なことがあります。

自律神経失調症では、抗うつ剤や抗不安薬による薬物療法を行っていくことが多いです。

しかしながら、状況によっては漢方薬が使われることがあります。ここでは、自律神経失調症で漢方薬が使われるケースをご紹介していきます。

①お薬に対する抵抗が強い場合

自律神経失調症の治療は、基本的には抗うつ剤や抗不安薬を使っていきます。最近の抗うつ剤は安全性も高く、適切に使っていれば身体への負担も少ないです。しかしながら、「精神科のお薬は飲みたくない」という患者さんは少なからずいらっしゃいます。

そのような場合は、患者さんが納得してくれていないのに無理に抗うつ剤は処方しません。まずは漢方薬での治療を提案することもあります。そのときに私が心がけるのは、漢方薬の効果がハッキリしない場合は抗うつ剤の治療を検討する約束をしてもらうことです。

もちろん、漢方薬で効果があることもあります。漢方薬はプラセボ効果(薬を飲んだことで安心したことによる心理的効果)が大きいといわれていますので、本来の漢方薬の効果にあわさってしっかりと効くこともあるのです。

漢方薬で効果がみられたらそれでよいですし、効果が不十分でしたら抗うつ剤を使って治療していく選択肢を忘れないでほしいのです。

②妊娠している場合

女性の患者さんの場合、妊娠されている方もいらっしゃいます。妊娠中に抗うつ剤が使えないわけではありません。自律神経失調症によく使われるSSRIの中では、パキシルを除けば奇形の報告などはありません。

抗うつ剤の妊娠への影響について詳しく知りたい方は、「抗うつ剤の妊娠と授乳への影響とは?」をお読みください。

実をいうと漢方薬でも、妊娠で絶対に安全という確認はされていません。そうはいっても抗うつ剤と比べると、漢方薬の方が抗うつ剤よりも安全性が高いことが多いです。ですから、患者さんの心配が大きければ妊娠初期は漢方薬に切り替えることも多いです。

妊娠初期は器官形成期と呼ばれ、赤ちゃんの重要な臓器が作られる時期です。およそ妊娠4週~15週の時期は漢方薬で様子を見ていくこともあります。

③不定愁訴がみられる場合

漢方薬では、身体の全体的なバランスの崩れを整えていくことで効果を発揮していきます。このためピンポイントの症状というよりは、いわゆる不定愁訴になる漠然とした症状に効果が期待できます。

お薬を使って自律神経失調症の治療をしていても、なんらかの自律神経症状がぼんやりと続くことがあります。このような時に、漢方薬を追加することで効果を補助してくれることがあります。

例えば、不安は抗うつ剤や抗不安薬によってよくなっても、その後に「どうにも気力がでない」「何かをしたいという気持ちがおこらない」ということがあります。このような時には、補気剤として補中益気湯や十全大補湯、人参養栄湯などを用いるとよくなることがあります。

それ以外にも、身体のさまざまな症状に対して漢方が効果を発揮することがあります。抗うつ剤の効果を補うためによく使う漢方薬をまとめてみます。

症状 漢方薬
喉頭部の違和感 半夏厚朴湯などの気剤
意欲低下 補中益気湯十全大補湯など
頭痛 呉茱萸湯・釣藤散など
肩こり 葛根湯など
めまい 苓桂朮甘湯・真武湯など
腹痛 大建中湯・桂枝加芍薬湯など
むくみ 五苓散・防己黄耆湯など

 

④副作用がみられる場合

抗うつ剤をはじめとした精神科のお薬では、さまざまな副作用が認められることがあります。副作用がみられたら減薬するのが基本ですが、その薬で効果がでている時は減らせないこともあります。そのような時に、漢方薬で副作用を軽減できることもあります。

もちろん漢方薬ですから、「証」があっている場合に使っていきます。副作用を改善させる漢方薬を、症状ごとにまとめてみます。

副作用 漢方薬
口のかわき 白虎加人参湯・麦門冬湯・五苓散・猪苓湯など
便秘 大黄甘草湯・麻子仁丸・防風通聖散など
下痢・嘔吐・胃もたれ 五苓散六君子湯など
めまい・ふらつき 苓桂朮甘湯・真武湯・半夏白朮天麻湯など
むくみ 五苓散・防己黄耆湯など
排尿障害 八味地黄丸・牛車腎気丸など
性機能障害 八味地黄丸・補中益気湯など
高プロラクチン血症 芍薬甘草湯など
肝機能障害 小柴胡湯・柴胡桂枝湯など

 

まとめ

漢方薬 代表的な使われるケース
柴胡加竜骨牡蛎湯(陽・実) 不安へのとらわれが強いとき
柴胡桂枝乾姜湯(陰・虚) 気力低下し、冷えや不安が強いとき
半夏厚朴湯(中・中) スッキリしない詰まるような不安のとき
加味逍遙散(陰・虚) 女性の不安や神経症状に対して
加味帰脾湯(陰・虚) 気力・体力が低下し、不安があるとき
甘麦大棗湯(中・中) 不安が発作的に強まるとき
桂枝加竜骨牡蛎湯(陰・虚) 緊張が強く、消耗が大きいとき
黄連解毒湯(陽・実) 神経が過敏になっているとき
抑肝散(中・中) イライラし神経が高ぶっているとき
抑肝散加陳皮半夏(陽・虚) 上記で胃が弱いとき
桂枝茯苓丸(陽・実) 女性の不安や神経症状に対して
当帰芍薬散(陰・虚) 女性の不安や神経症状に対して