遠隔診療によって精神科・心療内科では何ができるのか

アイコン 2016.6.2 精神科・心療内科について

遠隔診療とは、パソコンやスマホなどの通信技術を使って診察を受けることができる医療サービスです。

調子が悪くなったら病院にいって治療をうける、いままではこれが当たり前でした。精神科・心療内科でも同様で、診察まで長い時間を待合室で待たされることもあるでしょう。

遠隔診療が活用できると、わざわざ病院に行かなくてもよいので楽になるという方は多いかと思います。その一方で、精神科や心療内科の診察は特殊な部分もあり、遠隔ではできない「直接診察すること」での意味も大きいです。

遠隔診療によって、精神科・心療内科ではどのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか?それを踏まえて精神科・心療内科では、遠隔診療で何が出来るのかを考えていきたいと思います。

 

1.遠隔診療をしていくための条件とは?

どんな病気でも病状がおおむね安定していれば、通院が困難な理由があれば対面診療と組み合わせれば遠隔診療も可能としています。

遠隔診療は、平成27年8月10日の一本の厚生労働省の事務連絡によって大きく変わりました。

この事務連絡によって示された厚生労働省の移行は以下の3つです。

特にへき地や離島といった距離的な問題だけでなく、仕事が忙しいサラリーマンや小さなお子さんがいて家を離れられないお母さんなど、仕事や家庭の事情で通院が困難な方も対象となりました。このような理由はなんとでもなるので、事実上、誰でも遠隔診療ができるようになります。

病気に関しても、以前はさまざまな病気が例示されていましたが、今回の事務連絡では「あくまで例示にすぎない」となりました。このため、どのような病気でも対象ということになります。ただ、原則的には慢性期で症状の落ち着いている患者さんになるかと思います。

そして最後に、オンラインだけで済ませることはできないということになっています。少なくとも初回は対面診察として、その後は病状に応じて遠隔診療を組み合わせていくこととなっています。

このため現状では、初診は対面診療を行ったうえで、病状がおおむね安定していれば遠隔診療を行っていくというのが基本的な厚生労働省の解釈かと思います。

詳しく知りたい方は、「いま話題の遠隔診療、遠隔診療にはどのようなサービスがあるのか?」をお読みください。

 

2.遠隔診療が精神科・心療内科にもたらすメリット

それでは、遠隔診療が導入されることによって、どのようなメリットやデメリットがあるでしょうか。まずは遠隔診療のメリットから考えてみましょう。

第一に、患者さんの利便性が向上することがあげられます。遠隔診療を行うことで、自宅にいながらにして診察を受けることもできます。場合によっては職場などでも受けることができます。

病院に行くまでの時間もかかりませんし、薬局でお薬をもらうまでの時間もかかりません。基本的には遠隔診療は時間予約制になると思いますので、待ち時間もほとんどなく診察を受けることができるかと思います。仮に待ち時間があったとしても、病院の待合室でなければ負担も少ないかと思います。

このように患者さんの負担が少なく病院に通えることで、「病院に行くのがめんどくさい」という理由での治療の自己中断を減ることが期待できます。精神科や心療内科の病気では、長くお薬を飲み続けることが重要なことがあります。遠隔診療によって、治療の自己中断による再発を減らせる可能性があります。

また、このように患者さんの負担が少なくなれば、医療に対する心の距離も小さくなります。ちょっと調子がおかしいと感じても、「病院に行くほどでもない」と放置してしまうことで病状が悪化してしまうこともあります。遠隔診療によって、早期介入しやすくなることが期待されます。

患者さんによっては、調子が悪くなり過ぎて自宅から出れなくなってしまうこともあります。このような患者さんに対して、現在は家族が代理受診するという形をとることが多いです。遠隔診療によって、患者さん本人に治療的なアプローチをすることができます。

 

3.遠隔診療が精神科・心療内科にもたらすデメリット

このように遠隔診療は、とても可能性に満ちた医療手段といえます。しかしながら、精神科・心療内科での遠隔深慮にはデメリットもあります。その原因として、大きく2つのことがあります。

どんなによいサービスでも、お金がかかることは躊躇してしまいます。日本では国民皆保険制度によって、誰もが医療サービスを安価に受けられるようになっています。もしも自己負担がとても多ければ、病気になったからといって気軽には病院にいけなくなってしまいますね。

遠隔診療に関しては、診療報酬制度が十分に整っていません。現在のところ遠隔診療をすると、電話再診料72点(※時間帯によって変化)のみになります。遠隔診療では通院精神療法(330点)が加算できないため、医療機関としては採算があいません。

この抜け道としては、遠隔診療システム利用料(予約料)といった形で、自費で患者さんから請求することになります。保険が適応になりませんから、患者さんの負担が大きくなってしまいます。

精神科・心療内科の治療の特殊性もあります。精神科や心療内科では、患者さんとの問診をもとに診断と治療をすすめていきます。ですから身体の病気に比べて、音声と画像で判断できることも多いです。しかしながら、直接会って感じる接触感といったものは画像では伝わりません。

例えば統合失調症を診察すると、ベテランの先生になるとプレコックス感という独特の感覚があるとのことです。私にはまだまだ及ばない領域ですが、患者さんの接触感は大切です。遠隔診療で通信技術を介することで、このような対面して得られる感覚はつかめなくなります。

また精神科・心療内科の患者さんでは、通院すること自体が治療的であることがあります。心の病気では、考え方から行動が変わる面もあれば、行動から考え方が変わる面もあります。遠隔診療では通院という行動がなくなることで、より回避的な生活になってしまって病気がよくならない可能性があります。

自宅に引きこもった生活をしている患者さんでも、通院のための外出だけはしているということもあります。それがまったく外出しないでよいとなると、行動によって変わる糸口が無くなってしまいます。

このように、遠隔診療は精神科・心療内科領域では相性は良いと思いますが、デメリットもあるので適応する患者さんを考えていく必要があります。

 

4.遠隔診療が精神科・心療内科で普及するための課題

直接患者さんが受診してくる方が診療報酬は大きいため、現時点では遠隔診療での医療機関のメリットは少ないです。遠隔診療の普及には、診療報酬でのインセンティブが必要と思われます。

遠隔診療は、まだまだ始まったばかりです。現時点でいくつかのクリニックや病院で導入されてはいます。まだまだ一般のクリニックに普及するにはほど遠く、新しいものに挑戦する軌道に乗っている医療機関や企業がバックについている医療機関で導入されています。

これから精神科・心療内科領域では、どうすれば普及していくのでしょうか。普及していくためには、医療機関として遠隔診療にメリットがなければいけません。

本来は遠隔診療によって診療の質が上がることが理想ですが、ほとんどの医療機関が気にするのは経営効率(もうけ)でしょう。遠隔診療に関係してくる部分としては、以下の3つがあります。

遠隔診療が普及しない最大の要因は、患者さん一人当たりの診療単価が下がってしまうことにあるでしょう。遠隔診療をやらずに直接患者さんが来てくれる方が、医療機関としては儲かります。

ですからすでに患者さんがたくさんいるクリニックでは、遠隔診療をやりたいとは思わないでしょう。自費の部分を含めても、保険診療よりも患者さんの診療単価が上がることはないからです。

遠隔診療では、比較的安定している患者さんが多くなると予想されます。とくに忙しいという理由で受診ができない方は、それこそお薬だけもらえれば十分かもしれません。患者さんあたりの診療単価は下がりますが、そのかわりに多くの患者さんをみれる可能性があります。

しかしながらこのやり方は、診療の質を落としてしまう懸念があります。病院で診察していくのならば、患者さんの状態によって診察時間を調整することができます。安定している患者さんは短く、調子が悪い患者さんは長く時間を調整できます。

そんな中、遠隔診療の最大のメリットは、集患につながることでしょう。とくに今の時期は、多くの医療機関が及び腰になっています。とにかく患者さんを増やしたいという医療機関にはよいのかもしれません。

このように見てみると、現時点では遠隔診療での医療機関のメリットは少ないです。診療報酬が整ってくることで、少しずつ普及が進むかと思われます。

国としては医療費の抑制にもつながるので進めていく方針にはなると思いますが、既存のクリニックからは患者さんが減ってしまうことになります。開業医の既得権益が脅かされますので、それとの闘いということになるでしょうか。

 

5.精神科・心療内科での遠隔診療の可能性とは?

従来よりも、精神療法や生活習慣にアプローチした治療ができる可能性があります。そのかわりに診療時間がかかってしまうことがジレンマになります。

現実的な部分ばかりをみてしまいましたが、遠隔診療には診療の質をよくする可能性はないのでしょうか?私の空想に近くなりますが、遠隔診療の精神科・心療内科での可能性を考えてみたいと思います。

私は2つの可能性があるのではと考えています。

現在では、オンラインで行える精神療法サービスが充実してきています。オンラインカウンセリングやインターネット認知行動療法などです。これらのサービスを遠隔診療とうまく連携させられれば、クリニックでの診察では時間の制約で手薄になりがちな精神療法をより効率的に行えるかもしれません。

もう一つの可能性が、最近はやりのウェアラブル端末などの身体のデータをモニタリングできるサービスです。睡眠状態や血圧などをモニタリングすることで、薬に頼らずに生活習慣へのアプローチを重視した治療ができるかもしれません。

 

このように考えると夢は膨らむのですが、少し現実に戻ってみたいと思います。現実的に情報が多くなるということは、診察時間が長引くということになります。早く診察をこなしたいと考える医者にとっては、精神療法での治療過程や睡眠状態などといった有益な情報も、「よけいな情報」となってしまいます。

「よけいな情報」を知れば診察時間が延びてしまうので、できるだけ知りたくないと考える医者は少なくないでしょう。この背景を詳しく知りたい方は、「精神科・心療内科5分診療の「いいわけ」と「本音」」をお読みください。

このように考えてみると、

こんな遠隔診療サービスができたら理想的だと考えています。

 

まとめ

精神科・心療内科の遠隔診療について、思うところをまとめてみました。

遠隔診療はとても可能性のあるサービスですが、まだまだ診療報酬的に追いついていません。

できることなら診療の質があがる遠隔医療サービスが望まれますが、医療機関側がどこまで情報を望むかという問題もあります。

私の中での理想的な遠隔診療サービスを語らせていただきましたが、現実的に共感してくれる先生はそんなに多くはないかと思います。私が時間とお金に余裕が出てきても作られていなかったら、自分で作ってみるかもしれません(笑)