境界性パーソナリティ障害の診断基準と実際の診断

アイコン 2017.1.16 境界性パーソナリティ障害

両極を激しく揺れ動く感情や対人関係を特徴に持ち、依存した対象から「見捨てられたくない」という強烈な不安に追われる境界性パーソナリティ障害。

現代の若い女性に多く、その不安定さから自傷行為などの目立った行動も見られやすいため、世間でも認知度も高いパーソナリティ障害です。「ボーダーライン」「BPD」とも呼ばれます。

しかしその一方、目立つ言動だけをとらえて「境界性パーソナリティ障害」と決めつけられたり、反対に境界性パーソナリティ障害が見逃され、他の疾患と誤診されたりするケースも少なくありません。

ここでは、境界性パーソナリティ障害(境界性人格障害)の国際的な診断基準を解説し、実際の診断がどのように行われているかをご紹介します。

 

1.境界性パーソナリティ障害の診断基準

境界性パーソナリティ障害は、ICD-10では情緒不安性パーソナリティ障害の境界型に分類されます。境界性パーソナリティ障害の診断基準としては、おもにDSM-Ⅴの診断基準が使われます。

現在日本の診療の場で参考とされる診断基準には、アメリカ精神医学会によるDSM-5と、世界保健機関(WHO)によるICD-10という2つがあります。

しかしICD-10においては、「境界性パーソナリティ障害」が独立したものとして扱われず、「情緒不安定性パーソナリティ障害」の「境界型」という1つの種類として分類されています。

そのため境界性パーソナリティ障害の場合、主に参考とされるのはDSM-5となっています。

まずはそちらの項目をみていきたいと思います。そしてパーソナリティ障害全般の診断基準を、同時に満たしていることも境界性パーソナリティ障害の診断基準となります。順番にご紹介していきます。

 

①DSM-5による境界性パーソナリティ障害の診断基準

対人関係、自己像、感情などの不安定性および著しい衝動性の広範な様式で、成人早期までに始まり、種々の状況で明らかになる。以下の5つ(またはそれ以上)によって示される。

  1. 現実に、または想像の中で、見捨てられることを避けようとするなりふり構わない努力(⑤で示される自殺関連は除く)
  2. 理想化とこき下ろしの両極端を揺れ動くことによって特徴づけられる、不安定で激しい対人関係の様式
  3. 同一性の混乱:著明で持続的に不安定な自己像または自己意識
  4. 自己を傷つける可能性のある衝動性で、少なくとも2つの領域にわたるもの(浪費、手当たり次第の性行為、物質乱用、無謀な運転、過食や過食嘔吐など)
  5. 自殺の行動、そぶり、脅し、または自傷行為のくり返し
  6. 顕著な気分反応性による感情の不安定性(通常2~3時間持続し、2~3日持続することはまれな、エピソード的におこる強い不快気分、いらだたしさ、または不安など)
  7. 慢性的な空虚感
  8. 不適切で激しい怒り、または怒りの制御の困難(しばしばかんしゃくをおこす、いつも怒っている、取っ組み合いのけんかを繰り返すなど)
  9. 一過性のストレス関連性の妄想様概念または、重篤な解離症状

(参考・引用文献:DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引き 医学書院)

 

②DSM-5によるパーソナリティ障害全般の診断基準

  1. その人の属する文化から期待されるものより著しく偏った、内的体験および行動の持続的様式。この様式は以下のうち2つ(またはそれ以上)の領域に現れる。
    1)認知(すなわち、自己、他者、および出来事を知覚し解釈する仕方)
    2)感情性(すなわち、情動反応の範囲、強さ、不安定さ、および適切さ)
    3)対人関係機能
    4)衝動の制御
  2. その持続的様式は、柔軟性がなく、個人的および社会的状況の幅広い範囲に広がっている
  3. その持続的様式は、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている
  4. その様式は、安定し、長時間続いており、その始まりは少なくとも青年期または成人期早期にまでさかのぼることができる
  5. その持続的様式は、他の精神疾患の表れ、またはその結果ではうまく説明されない
  6. その持続的様式は、物質(例:乱用薬物、医薬品)または他の医学的疾患(例:頭部外傷)の直接的な生理学作用によるものではない。

(引用文献:DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引き 医学書院)

 

2.境界性パーソナリティ障害の診断基準のポイント

国際的な診断基準は、医師が参考にするもので専門用語も多く、また、元が英語の訳文なので日本語の表現としてわかりづらくなっている部分が見られます。ここでは、境界性パーソナリティ障害の診断基準の項目のポイントを整理していきたいと思います。

「対人関係、自己像、感情などの不安定性および著しい衝動性の広範な様式で、成人早期までに始まり、種々の状況で明らかになる。以下の5つ(またはそれ以上)によって示される。」

最初の文は、境界性パーソナリティ障害の全体像を示しています。

対人関係・自己像・感情などが極度に不安定で両極に揺れ動き、生活の広い範囲で、その不安定さやそこから発する衝動的な行為が見られるということです。

また、比較的若い段階(10代~遅くとも20代前半頃まで)からそのような傾向が見られ、現在まで慢性的にその状態が続いていることとされています。

そして、具体的には以下に続く項目のうち、5つ以上が見られることが、境界性パーソナリティ障害の診断基準となっています。

 

①強烈な「見捨てられ不安」

「現実に、または想像の中で、見捨てられることを避けようとするなりふり構わない努力」

境界性パーソナリティ障害の症状として、特定の人にしがみつき、常にその相手に見捨てられまいとして、普通では考えられないような手段に訴えるというものがあります。

実際に相手が自分を見捨てるような言動を取っていなくても、患者さん自身の中ではほんのささいなことで「見捨てられるのでは」という強烈な不安につながってしまいます。境界性パーソナリティ障害の方は、周囲の状況の変化に非常に敏感です。

そのため、何が何でも相手を自分につなぎとめようとして、1日に何回も電話をしたり、しつこく自分と会うことや愛情の言葉かけを求めたり、気を引くための泣き落としや脅し文句を使ったりもします。

この「見捨てられ不安」は、境界性パーソナリティ障害の中核となる感情と言われています。

 

②理想化とこき下ろし

「理想化とこき下ろしの両極端を揺れ動くことによって特徴づけられる、不安定で激しい対人関係の様式」

1人の相手に対し、理想の人物のように高らかにほめたたえたかと思えば、反対に激しく批判してこき下ろしたりするような状態を指しています。

通常であれば、どれだけ好きな相手にも嫌いな部分があり、合うところと合わないところがあるのが当然だという見方をします。ですが境界性パーソナリティ障害の方ではそれが上手くできず、いいか悪いか、一面をみて揺れ動いてしまいます。

理想的な人物が、少しでも嫌なところが見えれば悪人にもなってしまうように、1人の人の評価が両極になってしまって統合できません。このように、全体として物事をとらえられないことを「スプリッティング」といいます。

 

③同一性の混乱

「同一性の混乱:著明で持続的に不安定な自己像または自己意識」

自分というものがしっかりせず、自己像や自己評価が激しくコロコロ変わる状態です。

他人に対するのと同様に、自分自身についても長所と欠点や様々な面がある1人の人間という見方ができないことを、同一性の障害と表現します。

ある程度のレベルなら、誰しも自己像や自己評価が揺れ動いたりはします。ですがその度合いが激しく、日常生活に支障を及ぼしてしまうと「障害」とされます。

 

④自己を傷つけるような衝動行為

「自己を傷つける可能性のある衝動性で、少なくとも2つの領域にわたるもの」

主に見捨てられ不安や、自分がわからない虚無感からおこるもので、自分を傷つける恐れのある衝動行為が日常的に複数見られるとされています。

具体的には、収入に見合わない衝動買い、過食嘔吐や完全な拒食や暴食、アルコールの無茶飲み、不特定の相手との性行為、暴走運転、リストカットなどの自傷行為があげられます。

リストカットには2つの側面があり、自分がつらいことを分かってほしいという演技的な側面と、痛覚で自分の存在を確かめているという防衛機制としての側面があります。

痛覚はもっとも原始的な感覚で、人間の感覚の中でももっとも鋭敏なものです。リストカットをしてしまう方は、それによって自己の存在確認をしているという側面もあるのです。

 

⑤自殺のほのめかしと未遂のくり返し

「自殺の行動、そぶり、脅し、または自傷行為のくり返し」

衝動的に自殺をしてしまうというよりは、周囲、とくにしがみついている特定の相手の気を引くために、自殺をほのめかしたり、「私と別れるなら死んでやる」という発言が見られたりします。

実際に手首や腕を切る自傷行為(リストカットやアームカット)、過剰服薬などを繰り返すことも多いです。こういった行動は脅しやみせかけであることが多いのですが、誤って本当になくなってしまったり、本気で自殺企図してしまうこともあります。

自殺してしまう方は、8~10%とも報告されています。

 

⑥容易におこる強い感情のムラ

「顕著な気分反応性による感情の不安定性(通常2~3時間持続し、2~3日持続することはまれな、エピソード的におこる強い不快気分、いらだたしさ、または不安など)」

感情の不安定さについてですが、双極性障害で見られるような、周期的なハイとローの切り替わりや、うつ病のように長期にわたった持続的な抑うつ気分とは異なります。

何かささいな出来事をきっかけとして、簡単にイライラしたり不安になったりすることが、慢性的にくり返されている状態を指しています。感情のジェットコースターともいわれるほどの激しい感情の起伏がみられます。

対人関係に対する極端な反応であることが多いです。

 

⑦慢性的な空虚感

慢性的な空虚感

誰しも空虚感や虚しさを感じることはありますが、それが離れず、常に自分を支配しているような状態です。

ですから実生活でも飽きっぽく、いつも何か満たされないものを探しているような感覚でいることが多いです。

 

⑧異常な怒りっぽさ

「不適切で激しい怒り、または怒りの制御の困難(しばしばかんしゃくをおこす、いつも怒っている、取っ組み合いのけんかを繰り返すなど)」

状況にふさわしくない激し過ぎる怒りの感情を持ちやすい、いつもイライラして怒っている、または怒ったときに抑えるのが難しく、子どものようにかんしゃくをおこしたり怒りを行動に移したりしてしまう状態を指します。

自分にとって大切な人が思うようにいかない、ないしは見捨てたと感じると、怒りが発作的に生じてコントロールできなくなってしまいます。

そして怒りを吐き出した後は、一転して罪悪感や恥ずかしさを感じて、自分自身を責めてしまいます。

 

⑨一時的におこる精神病的な症状

「一過性のストレス関連性の妄想様概念または、重篤な解離症状」

強いストレスがかかったときに、統合失調症で見られるような妄想や、自分の感覚が無くなってしまう離人症状などが認められることがあります。

他の精神病とまぎらわしい症状ですが、あくまでストレスが一時的なもので、しばらくすると落ちつきます。見捨てられ不安が高まることによって引き起こされることが多く、それが解消するとすぐに良くなったりします。

 

3.境界性パーソナリティ障害の実際の診断

境界性パーソナリティ障害は、他の精神疾患と鑑別が難しいことが多いです。リストカットをしていると境界性パーソナリティ障害と安易に診断されがちですが、その本質が何かを考えていく必要があります。

診断基準は、あくまで医師が実際の診療を行った上で参考にするもので、それだけで病名を確定することはできません。

一見診断基準を満たしているように思えても、診察を続けているうちに別の側面が現れ、確定した診断には時間がかかるのが通常です。

ここでは、実際に診断を行うときに重要となるポイントをご紹介します。

 

①境界性パーソナリティ障害は他の疾患とまぎらわしい

精神疾患の診断は、症状が他の疾患とかぶることも多いので難しいものですが、とくに境界性パーソナリティ障害は、そのまぎらわしさが目立ちます。

境界性パーソナリティ障害は、患者さん自身の苦痛の大きさはもちろん、周囲を巻き込み衝動的な行動で生活が破たんするケースも多いため、治療現場に現れる割合は高いです。

そして症状は非常に目立つため、すぐに境界性パーソナリティ障害と診断されることも少なくありません。ですがその本質が何からきているのか、しっかりと見極めていく必要があります。

境界性パーソナリティ障害と診断するには、経時的な経過が大切になります。比較的若いころからパーソナリティの特徴が始まっていて、長期にわたって持続している必要があるのです。

またその症状が、本質的にどのようなことからきているのかを見ていくことも大切です。気分の不安定性が強いのであれば、後述いたしますが、双極性障害の可能性もあります。それであれば薬物療法で気分が安定すると、境界性パーソナリティ障害と思っていた特徴がすぐに落ち着いてくる可能性もあります。

もちろん、他の精神疾患と境界性パーソナリティ障害に合併しておこっている場合もありますが、本質の問題がどこにあるかに注意して診断を下さなければ、効果的な治療が難しくなってしまいます。

 

②境界性パーソナリティ障害と判別が必要な主な疾患

境界性パーソナリティ障害においては、症状に気分のムラや感情の不安定さが目立ちます。このため、気分に波のある気分障害と飲み分けるのが難しいです。

双極性障害(とくにⅡ型)や典型的なうつ病の症状の現れにくい非定型うつ病など、波のある気分障害と混合されることが多いです。これらは境界性パーソナリティ障害に併発することもありますが、気分障害として薬物療法をしっかりと行うことで落ち着くこともあります。

こういった気分障害が、診察したときの症状だけで境界性パーソナリティ障害と決めつけられてしまうことが少なくありません。

 

そして境界性パーソナリティ障害は、演技性パーソナリティ障害と紛らわしいことが少なくありません。演技性パーソナリティ障害も、人の注目を集めようと操作性があり、感情の起伏も大きいです。

しかしながら演技性パソナリティ障害は、境界性パーソナリティ障害ほど自己破壊的ではなく、慢性的な虚無感や孤独感は認められにくいです。そして演技性パーソナリティ障害では、親しい人との関係を急に怒って破たんさせることは珍しいです。

このようにいうと分かりやすいように見えるかもしれません。ですが実際のパーソナリティは、様々な要素を併せ持っています。一番本質的なパーソナリティの特徴を診断していきます。

 

③自傷行為=境界性パーソナリティ障害ではない

境界性パーソナリティ障害は、安易に「境界性パーソナリティ障害」と決めつけられてしまうケースが少なくありません。

とくに、境界性パーソナリティ障害の象徴のように扱われているリストカット(手首を切る)やアームカット(腕を切る)が見られると、それだけで境界性パーソナリティ障害と診断されてしまう場合があります。

一般的にも、「ボーダーラインはリストカットする若い女の子」という認識がされていることがありますが、医師もそのような先入観で診断してしまっていることが少なくありません。

リストカットなどの自傷行為は、知的障害や発達障害によるストレス処理の未熟さでもおこります。他者の注目を得たい心理が元になった疾患によって起こることもありますし、妄想や解離症状によっておこったりしている場合もあり、他の症状を十分に見極めた上での慎重な診断が重要です。

いずれにしても、境界性パーソナリティ障害の診断には時間がかかり、くり返す診察の中で診断は変化することもあります。

また、診断基準ほどは特徴的ではなくても、医師が個人的に境界性パーソナリティ障害の素因があると判断し、治療をしていくために診断を下す場合も考えられます。

 

まとめ

境界性パーソナリティ障害の診断基準と実際の診断についてご紹介しました。

診断基準は、医師の専門的な知識と実際の診察を合わせて用いられるためのもので、その内容だけで病名を判別できるものではありません。

その点に注意しつつ、自分や周囲の疾患への理解を深める、何らかの気づきのきっかけとする参考としていただけると幸いです。

気になることがあるときには、専門の病院を受診してください。