回避性パーソナリティ障害の診断基準と診断の実際

アイコン 2016.11.3 回避性パーソナリティ障害
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回避性パーソナリティ障害は、傷つきや恥を極端に恐れて対人や社会的場面を避け、生活や精神状態に支障をきたす障害です。

パーソナリティ障害の中では比較的症状がわかりやすいですが、実際の診断では、様々な病気との鑑別も必要になります。

回避性パーソナリティ障害を診断していくためには、国際的な診断基準の項目を参考にしていきます。その項目をみていくことで、回避性パーソナリティ障害の特徴が見えてくるかと思います。

実際に診療していくにあたっては、診断基準の文字面を負っているだけでは難しいです。心の病気にかかれば、いろいろな物事を避けてしまうことは少なくありません。それがパーソナリティ(性格)として固定化されているのかどうか、見極めるのは単純ではありません。

ここでは、回避性パーソナリティ障害(回避性人格障害)の診断基準と実際の診断でのポイントを知ることで、この障害についての理解を深めていければと思います。

 

1.回避性パーソナリティ障害の診断基準

回避性パーソナリティ障害の診断基準としては、DSM‐ⅤとICD-10の2つが代表的です。

病気の診断には、診断基準やガイドラインといったものが作られています。身体の病気に限らず、心の病気でも診断基準は作られています。

心の病気は、検査数値や外観などからわからないことも多く、症状は患者さんの訴えが多くの部分をしめます。それを医師が解釈していくので、どうしても人によって診断のばらつきが出てしまいます。

このような精神疾患に一定の基準を設けるために、診断基準が作られています。共通の基準を使うことで、診断や治療が大きく変わってしまうことが減ります。

現在日本で主に用いられているのは、アメリカ精神医学会がまとめているDSMと、世界保健機構(WHO)がまとめているICDの2つです。これらは適宜改訂され、最新はDSM-5と、ICD-10となっています。

まずは、それぞれにおける回避性パーソナリティ障害の診断基準を見てみましょう。

 

①DSM-5による回避性パーソナリティ障害の診断基準

  • 社会的抑制、不全感、および否定的評価に対する過敏性の広範囲な様式で、成人期早期までに始まり、種々の状況で明らかになる。
  • 以下のうち4つ(またはそれ以上)によって示される。
  1. 批判、非難、または拒絶に対する恐怖のために、重要な対人接触のある職業を避ける
  2. 好かれていると確信できなければ、人と関係をもちたがらない
  3. 恥をかかされる、または嘲笑されることを恐れるために、親密な関係の中でも遠慮を示す
  4. 社会的な状況では、批判される、または拒絶されることに心がとらわれている
  5. 不全感のために、新しい対人関係状況で抑制がおこる
  6. 自分は社会的に不適切である、人間として長所がない、またはほかの人より劣っていると思っている
  7. 恥ずかしいことになるかもしれないという理由で、個人的な危険をおかすこと、または何か新しい活動に取りかかることに、異常なほど引っ込み思案である

 

②ICD-10による不安性(回避性)パーソナリティ障害の診断基準

  • 以下によって特徴づけられるパー ソナリティ障害
  1. 持続的ですべてにわたる緊張と心配の感情
  2. 自分が社会的に不適格である、人柄に魅力がない、あるいは他人に劣っているという確信
  3. 社会的場面で批判されたり拒否されたりすることについての過度 のとらわれ
  4. 好かれていると確信できなければ人と関わることに乗り気でない
  5. 身体的な安全への欲求からライフスタイルに制限を加える、または、批判,非難あるいは拒絶をおそれて重要な対人的接触を伴う社会的あるいは職業的活動を回避する

 

 

2.回避性パーソナリティ障害の2つの診断基準で共通点と相違点

パーソナリティ障害の2つの診断基準は、多くの部分で共通しています。相違点としては、ICD-10 では不安や緊張の強さを項目として重視しています。共通点をみれば、回避性パーソナリティ障害の特徴がみえてきます。

DSM-5とICD-10による診断基準をご紹介しましたが、言い回しが専門的な部分もあり、わかりにくい表現があります。ここでは、その内容を詳しく解説していきます。

その中で、2つの診断基準の共通点と相違点をみていきましょう。そして共通部点から、診断で重要となる回避性パーソナリティ障害の特徴を見ていきたいと思います。

 

2-1.2つの診断基準の共通点と相違点

2つの診断基準は、大まかに見れば内容がほぼ共通しています。共通部分を簡単にまとめると、

となります。これが、基本的な回避性パーソナリティ障害の診断基準です。これらの傾向が見られる場合、回避性パーソナリティ障害の可能性は高くなります。

相違点としては、ICD-10においては全般的な不安や緊張なども項目に含まれ、「不安性パーソナリティ障害」のひとつという分類になっている点です。

実際の診療の場では、DSM-5の方をメインにしていることが多いです。

 

2-2.共通点からみる回避性パーソナリティ障害の特徴

ここでは、共通部分の項目を1つずつ取り上げて解説を加えたいと思います。

 

①他人からの非難・批判・拒絶に強い恐怖があり、対人や社会活動を避ける

「他人からの非難・批判・拒絶に対する強い恐怖」は、回避性パーソナリティ障害の基礎になる症状です。その恐怖があるがために、対人や社会活動を避けたり精神的な苦痛がともなったりします。

もっとも問題になりやすいのは、診断基準の項目にもなっているように、「この恐怖のために重要な対人接触のある職業を避ける」ことです。

誰しも、他人からの非難・批判・拒絶というのは嫌なものですが、それが仕事や生活の支障になっていなければ問題はありません。

しかし、回避性パーソナリティ障害の方の場合、恐怖があまりに強く、そのため人と接することの多い仕事に就くことができなかったり、学生なら学校に行けなくなったり、主婦の方なら子どもの学校行事や役員会に参加できなかったりということがおこる場合があります。

仕事の場合、自らが望んで在宅業や気楽なフリーター業を選択しているなら問題ありませんが、本当は「こういう仕事がしたい」という欲求や能力があっても挑戦できず、正職にすら就けずにバイトを転々としてしまう方もいます。さらに状態が酷くなれば、働けないニートや外にも出られない引きこもりに発展するケースもあります。

 

②対人や社会活動を避けないまでも、常に相手からの評価を気にしている

①のように対人や社会活動を避けないまでも、常に相手からの評価を気にし、非難や批判を受けるかもしれないことへの恐怖に耐えている方もいます。

仕事や社交の場で常にそのような精神状態だったとしたら、緊張や疲労が半端ではありません。実際に行動は避けずに外見上は普通の生活をしているとしても、それに強い精神的な苦痛がともなっている場合、回避性パーソナリティ障害の症状として扱われます。

この状態を放置していると、うつや他の不安障害を引き起こすこともあります。

 

③絶対に好かれていると確信が無ければ人と関わることを避ける

初対面の相手や付き合いの浅い相手の場合、「絶対に好かれている」という確信はなかなか持てません。少し仲が良くなってきた友人や仕事仲間でも、「もしかしたら嫌われているかも」と疑いだせばキリがありません。

絶対に好かれているという確信が無ければ人と関わろうとしないとなれば、仕事や生活にも支障がでる可能性があります。

回避性パーソナリティ障害の方は「他人からの拒絶」を非常に恐れる傾向があるので、絶対に好かれているという確信を持てないと対人関係に踏み出していきづらいのです。

また、家族や友人や恋人のような親密な関係であっても、その人たちの前で恥をかくことを恐れて消極的になったり、素の自分をだせなかったりすることもあります。

 

④恥や傷つきを恐れ、ライフスタイルに制限を加える

①~③をまとめたような内容ですが、恥をかくことや他人の言葉で傷つけられることを恐れ、本当は就きたい仕事に挑戦できなかったり、恋愛や結婚の機会を避けたり、参加したい活動も避けてしまったりと、ライフスタイルの選択の幅が非常に狭くなってしまいます。

回避性パーソナリティ障害を判断する際には、「本人が望んでいるのに、恐怖心や自信の無さのためにできない」というのがポイントです。

どのようなライフスタイルであっても、本人が納得して周囲に迷惑がかからなければ、それは本人の自由です。

など、価値観は様々です。しかし、回避性パーソナリティ障害の方は、本来望んでいるライフスタイルが、恐怖心や自信の無さによって妨げられてしまいます。そこの部分が、「障害」と判断される基準です。

 

⑤自分は社会的に劣っていて価値の無い人間だと思いこんでいる

これは、回避性パーソナリティ障害の方に共通して見られる心理状態です。必要以上の自信の無さや劣等感、自分は何をやってもダメだという自己不全感が、常につきまといます。自分に自信が無いから「どうせ嫌われてしまう」「どうせ失敗してしまう」という心理が強く働き、そうなったときの恥や傷つきから心を守ろうとして、回避という行動がおこります。

回避性パーソナリティ障害の方は、内面に高い理想を掲げていることも多く、それと現実の自分とのギャップにより、あるがままの自分を実際よりも低く評価してしまう傾向を持つ場合も多いと言われています。

 

3.回避性パーソナリティ障害の実際の診断

回避性パーソナリティ障害は、回避的な思考や行動が性格として固まってしまっている病気です。社交不安障害が続くことで、性格として固まってしまうことが多いです。

回避性パーソナリティ障害は、他のパーソナリティ障害や精神疾患の2次的なものとしてもおこることがほとんどです。

他のパーソナリティ障害や発達障害などの生きづらさが根底にあり、それによっておこる周囲との摩擦や傷つき体験などが積み重なり、回避性パーソナリティ障害の傾向がでてくることがあるからです。

DSM-Ⅴの診断基準では、「広範囲な様式で成人期早期までに始まり、種々の状況で明らかになる」と定義されています。回避性パーソナリティ障害の特徴が、パーソナリティ(性格)として固まってしまったときに診断されるということになります。性格であれば、様々な場面で回避性パーソナリティ障害の特徴が見えてきます。

ですから一時的であったり、一部分だけであれば、回避性パーソナリティ障害とは診断されません。例えばうつ病が根底にあれば、うつによって人や活動を避けたり、極度に自信が無くなったりもします。このようなケースでは、本当に治療が必要なのは根底にあるうつ病ですし、うつ病がよくなれば回避的な思考や行動も改善していきます。

回避性パーソナリティ障害とよく似た症状を持つ疾患として、社交不安障害があります。社交不安障害では、苦手な社交場面になると極度の恐怖に襲われて、身体に何らかの自律神経症状(発汗・赤面・動悸など)がおこり、それが周囲におかしく思われるのではという不安が症状のメインになっています。

社交不安障害では、普段は穏やかに生活できています。回避性パーソナリティ障害では、日常生活での思考や行動も回避的になってしまいます。社交不安障害が続いた結果、回避性パーソナリティ障害を合併してしまうことも少なくありません。

回避性パーソナリティ障害の方は、基本的に他人の言葉を過度に受け取りやすい傾向がありますが、他の病気のせいで物事に過敏になっていることもあります。

「周囲がみんな、自分を責めているように思える」「本来無いはずの欠点を笑われている」などの思いにとらわれたりしている場合は、統合失調症による妄想や妄想性障害、身体醜形障害など別の疾患が隠れている可能性もあります。

いずれにせよ、精神疾患の診断には十分な聞き取りや観察が必要で、実際の診断がつくまでには時間がかかる場合があります。

診断基準などを自分で見て「自分は回避性パーソナリティ障害だ」と感じたとしても、正確な診断は専門家に相談しなければ難しいです。

 

まとめ

回避性パーソナリティ障害の診断基準、実際の診療での診断についてご紹介しました。

診断基準のポイントをまとめると、

パーソナリティ障害は全般的に、そのような性格傾向があるというだけでは障害と診断されませんが、回避性パーソナリティ障害は、人生の可能性を奪い、本人の精神的苦痛の大きな障害です。

「これは性格だから仕方がない」と決めつけず、自分が苦しみ可能性を感じたときには、パーソナリティ障害を扱える病院への受診をおすすめします。