回避性パーソナリティ障害はどのような原因があるのか

アイコン 2016.11.18 回避性パーソナリティ障害
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恥や傷つき、失敗を極端に恐れなどが強まっていくと、傷つきや恐れから避けて生活をしがちになってしまします。こういった回避傾向が強まってしまうと、様々な場面を避けてしまうようになってしまうことがあります。

こういった思考・行動パターンが固まってしまうと、回避性パーソナリティ障害として診断されます。対人関係を避けて会社や学校にいけなくなってしまったり、社会生活に支障がでてきてしまいます。

このような、並の人見知りや引込み思案では説明がつかないほどの状態は、どのような原因でおこってくるのでしょうか。

ここでは、回避性パーソナリティ障害(回避性人格障害)の原因についてのいくつかの説や、実際によく見られるケースをご紹介します。

 

1.回避行動を生む原因とは?

日常生活で回避行動をとることは、必ずしも悪いことではありません。特に日本人は調和を重視するため、回避行動をとりやすい文化的な下地があります。

人との接触や自分が評価される場面を避けてしまう原因には、様々なものがあります。その代表的なものとして、以下のようなものがあげられています。

ある程度のレベルなら、自信の無さや他人の評価に左右されやすい価値観は、めずらしいものではありません。

とくに日本は、個性よりも周囲との調和を重視し、「人から変に思われないこと、社会の多数派の価値観からはみ出さないこと」が強調される傾向があるため、国民的に回避性パーソナリティ障害を発症しやすい下地があると言われています。

控えめさや謙虚さが美徳とされている背景もあります。それは別に悪いことではありませんし、日本人のいい部分とも言えます。

ですが、あまりにそれを重視するような心理が働いてしまうと、謙虚というより卑屈で、自分で自分の人生の可能性を殺すような選択をしてしまうようになります。

人と接するのが怖かったりおっくうだったり、自分が評価される場面を避けてしまいたいという気持ちは、多くの方が持っています。けれど通常は、それを抱えながら社会生活ができ、それほどの精神苦痛は与えません。

では、回避性パーソナリティ障害を発症するまでに至り、仕事や対人関係や精神状態に大きな支障を及ぼすようになってしまう原因はどこにあるのでしょうか。続けてみていきましょう。

 

2.回避性パーソナリティ障害の原因として考えられているもの

遺伝的な要因に加え、生育環境や様々な体験が回避性パーソナリティ障害の原因となっていきます。

回避行動がひどくなってしまって、回避性パーソナリティ障害とまでいってしまうのにはどのような原因があるのでしょうか。大きく分けると3つの要因があります。

パーソナリティ障害の発症には複数の要因が関わっており、患者さんの数だけ原因はあって、どれ1つとして同じものはありません。

ただ、回避性パーソナリティ障害の場合、多くの患者さんに共通して見られる成育環境や経験などがあるため、それが発症の背景に関わっているのではないかと考えられています。

 

①遺伝的要素

回避行動自体は自然なもので、私たちが危険から避けるために必要な行動です。幼児期や小児期にはじまり、年を重ねるごとに少しずつ薄れていくのが一般的です。ですから、正常な発達の一つの段階でもあるのです。

ですが回避性パーソナリティ障害には、以下のような2つの遺伝的な影響があることもわかってきています。

見知らない人や場所などに対して不安を抱いて警戒し、できるだけ回避しようとする行動パターンのことを行動抑制といいます。この行動抑制をとるような気質は、遺伝の影響を強くうけることがわかっています。そして不安気質は、文字通り不安になりやすい気質です。

それだけでなく、育ての親による遺伝的な影響もあります。社会との接し方は親から学んで学習することが多いです。物事の受け止め方や不安や恐怖の抱き方、それに対する対処法は、親をみて覚えていきます。このような影響を、遺伝環境交互作用といいます。

もともとの遺伝要因に加えて、遺伝環境交互作用が働きます。これによって、遺伝的な気質以上に回避性パーソナリティ障害になりやすくなります。

 

②成育環境の影響

回避性パーソナリティ障害では、養育環境や幼少期からの経験が大きな影響を及ぼします。以下の2つを増長させてしまうような育て方が、回避性パーソナリティ障害の原因となります。

具体的な育て方の例をあげてみましょう。

周りからの評価を気にして友人と比べながら育てられた場合、「周りに比べて自分は劣っている」と感じてしまいます。「失敗しないようにしなければ」という気持ちが強くなり、社会的な場面での不安や緊張が高まりやすくなります。

過保護に育てられている場合、親が子供の生活を制限させてしまうことが多くなります。あれもダメ、これもダメと親がストップをかけてしまうと、少しでも危険なことはやめといた方がよいという回避の行動パターンが子供に作られていきます。回避してしまうと苦手意識がますます増してしまうので、悪循環となってしまいます。

さらには社会的状況への対処能力(コーピング)が育たなくなってしまい、コミュニケーションスキルや感情のコントロールが未熟に育ってしまいます。

愛情が注がれていなかったり、ほめることをせずに罰をあたえることが中心の育て方ですと、「他人は厳しい存在で自分を批判する」という対人関係に対する考え方が固まってしまい、回避性パーソナリティ障害の原因となりえます。

 

③つらい体験や社会の影響

多くの人に注目されている中で失敗して恥をかいてしまったという経験をすることが、回避性パーソナリティ障害の原因となっていくことがあります。本当に失敗していなくても、本人の中で失敗しているという思い込んでしまうこともあります。

回避性パーソナリティ障害の患者さんに失敗した経験のことを話してもらうと、結果的には上手くいっているのに、「うまくやれているかな?」と不安になったという方もいらっしゃいます。こういった不安が少しずつ大きくなり、社交不安が強まっていくこともあります。

他人が失敗しているのをみて、それを自分に置き換えてしまう方もいらっしゃいます。「自分も失敗したらどうしよう」という気持ちが強くなってきてしまうのです。

このように、できるだけ苦手な場を避けたいという気持ちが強まってしまいます。こうして不安が悪循環し、回避性パーソナリティ障害に発展していってしまいます。

 

いじめも、回避性パーソナリティ障害の発症に影響することがあります。同世代の友達の中でいじめられるという経験は、非常に屈辱的な経験です。自分は周りに比べて劣っているのではと、周囲の目線を気にしてしまうきっかけになります。再び人間関係に関して傷つくことをおそれ、回避パターンが出来上がってしまうこともあります。

また、社会的な影響もあります。日本は、「恥の文化」といわれています。人と協調することをよしとして、他人の評価を気にする傾向が強いです。こういった日本人としての民族的な、いわば集合的無意識ともいえる考え方も影響しています。

それと同時に、現代社会の変化も影響が大きいです。現代社会は情報技術の進歩が目まぐるしく、周りからの評価にさらされやすくなると同時に、ひきこもっても何でもできるという時代です。このことは、回避性パーソナリティ障害を引き起こしやすくなっていると考えられます。

 

 

3.回避性パーソナリティ障害の原因となる養育環境の例

養育環境は、うまれもっての性格傾向である気質に加えて、性格形成に大きな影響を及ぼします。

回避性パーソナリティ障害は、

が増長されてしまうような養育環境が原因のひとつになります。具体的な例を、もう少し詳しくお伝えしていきます。

 

①親が周囲からの評価を絶対視していた

親自身が周囲からの評価を常に気にして、それに沿った生活をしている場合、子どもも同じような価値観になることがあります。

それでも上手く周囲からの評価が得られるような状態なら問題はおこりにくいですが、能力や容姿も含めてあまり評価をされる要素がなかった場合が否定的な自己評価につながります。必要以上に悪いこと、劣っていることのようにとらえる傾向が育ちやすく、卑屈になってしまいがちです。

本来は、目に見えるものへの評価だけが人の価値ではないはずが、偏った価値観ばかりの中で育つと、それがわからなくなってしまいます。

 

②幼い頃から過大な期待を背負ってきた

元の性質に関わらず、幼い頃から自分の容量以上に高い期待がかかった環境で育った場合、回避性パーソナリティ障害の傾向が生まれやすいと言われています。

回避性パーソナリティ障害は、「あるがままの自分を正当に評価できない自己愛の障害」ともいえます。相手に対して自分の理想像を投影してしまうと自己愛性パーソナリティ障害となりますし、回避という方向にむかえば回避性パーソナリティ障害になります。そして本来の自分への評価が低すぎることから、極端な自信の無さがおこります。

このように、あるがままの自分をほめてもらえず、常に自分の容量以上のものを求められ続けた成育環境とつながっている場合もあるのです。

例えば、本来テストで80点を取れば十分に優秀なはずですが、いつも100点でなければほめてもらえなかった場合、「80点しか取れない自分はダメだ」となってしまいます。それが幼い頃から慢性的に続いてくれば、自己肯定感が育ちにくくなります。

そしてだんだん人の期待を裏切るのが怖くなり、拒否や拒絶に過剰なほどの恐れを抱くようになって、回避という行動につながっていきます。

ただ、同じように育てられても、皆が回避性パーソナリティ障害になるわけではありません。そこには、親の性質と本人の性質の組み合わせの問題があります。過大な期待を背負ったとしても、本人がそれを大して重圧に感じず、親の期待とはまったく違う行動を取る場合もあります。

回避性パーソナリティ障害を発症する方は、基本的に人の機微に敏感で優しく、周囲の期待にこたえてあげようと頑張ってしまう真面目な方が多いです。また、不満があってもそれを表に出さず抱え込み、自分を追いこんでまで、無理に頑張ってしまう傾向のある方も多いです。

 

③家庭や学校が成果主義だった

回避性パーソナリティ障害の方は、完璧主義の傾向が強い場合も多いです。何かをやってみて失敗をしたり恥をかいたりしたところで、本来は過程の努力が大切で、それによって得るものは大きいはずです。

けれど、常に結果を出さなければ認めてもらえないような家庭や学校の環境があり、それについていけず挫折経験が積み重なった場合、「失敗や恥=許されないこと」のような思いこみが頭に刷り込まれていきます。これが、回避性パーソナリティ障害につながっていくこともあります。

 

 

 

 

④常に誰かと比較され続けた

身近な兄弟や親戚、同級生など、常に比較されて劣等感をあおられるような環境に育った場合、自己評価が極端に低く、他人からの評価に強く依存しやすい傾向が生まれやすくなります。

自分は誰よりも劣っている、劣っている自分は誰からも愛される価値がない人間だという苦しいとらわれが生まれ、対人関係が辛くなり、回避性パーソナリティ障害につながることがあります。

 

⑤過大評価され続けて怒られることが無かった

上の例とは反対に、何でもかんでも許され、あるがままの自分以上の高い評価を受け続けるような甘やかされた成育環境も、回避性パーソナリティ障害の原因のひとつとなります。

ごく幼い頃の全肯定は、自己愛を育てる上で大切な過程ですが、保育園や幼稚園など社会に出る段階になると、正当な評価も必要になってきます。

明らかに自分の努力が不足しているような失敗を、「あんな課題を出すような学校が悪い」などのようにして親がかばい、一切注意を受けないままでいると、他人からのささいな批判や拒絶に極端に打たれ弱くなって、他人や社会が怖くなってしまうケースがあります。

 

⑥周囲が自分に無関心だった

親が子どもに関心を示さず、それ以外にも自分に関心を払ってくれる人が身近にいなかった環境で育った場合、自分は無価値な人間だという思いこみが生まれてしまうことがあります。

そのため自分に自信が持てず、一方では強烈に人との接触を求める心があるものの、否定や拒絶が怖くて近づけない、人に評価される場面に出ていけない状態におちいり、ジレンマに苦しんでいる回避性パーソナリティ障害の方もいます。

 

4.社会でのつらい体験や社会の影響

いじめや傷つきといった社会での個人的な体験、日本人としての民族的な風習にくわえて、現代社会の変化も大きな影響を及ぼしています。

いじめなどの傷ついた体験や社会での役割変化などは、回避性パーソナリティ障害のひとつの原因となります。生まれ持っての気質や養育環境によって性格が形成されていきますが、社会生活の中でのつらい体験や社会そのものの変化も影響してきます。

 

①いじめや傷つき体験

家庭環境とは関わらず、外でのいじめや大きな傷つき体験が影響する場合もあります。そのような体験があったとき、感情を表現できずに抱え込んでしまうタイプの方の方が、より自分の内部の傷を深くしてしまう傾向があります。

いじめや傷つきの経験を持っている方は多いですが、それが上手くフォローされたり昇華できたりする環境があれば、適切に乗りこえることもできます。

しかし苦しい状態のままで、いじめや傷つきは自分が悪いから自分が劣った人間だったからおこったという挫折感や自責感が根付いてしまった場合、その後も人や社会が怖くなり、回避性パーソナリティ障害につながるケースがあります。

 

②時代的背景

回避性パーソナリティ障害自体は昔から見られるものとされていますが、近年だんだんと増える傾向にあります。とくに仕事ができなくなったり、引きこもってしまったり、重度の方の増加が目立ちます。

そこには、2つの社会の変化があるように思われます。一つ目は、社会全体がネットやテレビでつながり、外部からの評価に常にさらされ、他人や社会から評価されるようになっている点があります。SNSが普及し、その人の近況が手に取るようにわかります。

「リア充」という言葉がつくられたように、充実した社交関係を持たないと価値がない人間と誤解されてしまうような、社会全体の風潮や時代背景があります。

また、コンプレックス商法が盛んにおこなわれています。本来個性のはずの身体的特徴を、「社会的に劣っているもの」と思いこませるような美容整形やダイエットなどの広告も、不必要にコンプレックスを植え付け、他人や社会が怖くなる人を生み出す要因になっているでしょう。

二つ目は、こういった情報技術の進歩に伴って、引きこもって社会とかかわりを持たなくても生活ができるようになっていることです。ゲームなどの仮想世界で自分を守りながら人と接したり、コミュニティーに加わることもできます。

こうしたリアルな世界での社交からは回避しつつ、自分の安全な世界の中で社会との接点をもてるようになっていることも、回避性パーソナリティ障害の時代の変化のように感じます。

 

5.回避性パーソナリティ障害の原因を知ることの意味

 

回避性パーソナリティ障害において、その原因を知る意味とは何でしょうか。

パーソナリティ障害の場合、原因が1つに確定されるということは無く、複雑な要素が様々に絡み合って発症しています。本来は1人1人すべて原因は違っていますが、ある程度共通して見られる家庭環境や性格傾向というものはあります。

それらを知ることで、治療する側は患者さんへのアプローチがしやすくなります。

そして、患者さん本人にとっては、あげられている原因を自分に当てはめてみることで、病気の成り立ちや自分の極端な考え方の元になったものに気づき、自分を客観視することでとらわれから脱出し、現在の状況を改善する手がかりになります。

自分の性格だけの問題と考えていたものが、そうではなくて他に影響する何かがあったと知るだけでも、気持ちが楽になる場合があります。

しかし、本当の原因は、本人や多くの患者さんと接する専門の医師であっても、なかなか気づくことはできません。回復が進んでいけば、自然と自分なりの原因がわかるようになる場合はありますが、治療を受けている段階では、「こういうことが自分の病気には関わっているかもしれない」と知識としてわかっているだけで十分です。

原因探しが中心になってしまうと、反対にとらわれがひどくなってしまう恐れがありますし、深い原因追求が必ずしもいい結果を生むとは限らないからです。

また、このような記事、書籍などに書かれている情報は、もちろん専門家達の研究や臨床経験によるものを基本としていますが、「そのように考えられる」という推測の範囲です。

誰にもはっきりしたことは言えないし、この病気だから必ずこの原因が当てはまるものではないですし、特定の家庭環境を批判しているわけでもありません。あくまでも、本人の資質との組み合わせや外部環境など、様々なものが複合されて発症に結び付いたということです。

それをご理解の上、参考の1つに留め置いていただけると幸いです。

 

まとめ

回避性パーソナリティ障害の原因と考えられている主なものは、

の3つがあり、単独というより複数の要素が絡んでいます。もしかしたら、自分では忘れてしまっているような出来事が、積み重なって影響している場合もあるかもしれません。

いずれにしても、回避性パーソナリティ障害は、単なる性格の問題ではありません。過去の原因は排除できなくても、それを越え、これから先に改善していくことは可能な1つの病気です。

苦しい思いをされているときは、パーソナリティ障害の治療を扱っている病院に相談してみてください。