双極性障害に有効な治療薬とは?双極性障害の薬物療法

アイコン 2016.1.22 双極性障害/躁うつ病

双極性障害では、薬物療法が非常に重要です。双極性障害は原因がわかっていない病気ではありますが、脳に何らかの機能異常があると考えられているためです。そのような機能の異常を、薬で上手く整えてあげる必要があります。

双極性障害とは、気分の波に伴って様々な症状が認められます。

気分が高揚している躁状態では、気持ちの高まりと同時に自尊心も強くなります。このような気分によって人と接するので、仕事や家庭においてトラブルとなってしまうことも多々あります。

気分が落ちこむうつ状態では、気分が滅入ってしまいやる気が起きなくなってしまいます。本人の中での苦痛が非常に大きいのです。その中で、比較的普通に生活できる寛解期(間欠期)もあります。

このような症状は、患者さんによっても違いがあります。目の前の症状だけでなく長い目で、患者さんごとに適切な薬を選んでいく必要があります。ここでは、双極性障害で有効な治療薬について詳しくお伝えしていきます。

 

1.双極性障害ではどのような目的で薬を使うのか

気分の波を小さくする(抗うつ効果・抗躁効果)だけでなく、気分の相を少なくすること(再発予防効果)が重要です。

双極性障害では、薬による治療が非常に重要な病気です。原因はよくわかっていないのですが、脳の機能的な異常によって気分の波が生じると考えられています。その波を少しでも穏やかにするために、薬物療法が重要なのです。

双極性障害の治療薬としては、大きく3つの役割が期待されます。

躁状態とうつ状態は、今まさに何とかしなければいけない状態です。躁状態では患者さん本人は問題意識はありませんが、家族や仕事で大きなトラブルにつながります。うつ状態では、患者さん本人が非常に苦しみが深いです。このような気分の「波」を抑えなければいけません。

双極性障害の治療では、波を抑える治療だけでは対症療法になってしまいます。躁状態やうつ状態などの病気の状態である期間を病相期といいますが、気分の「相」をいかに少なくしていくかが非常に大切です。そのような意味で、再発予防効果が重要なのです。

双極性障害の治療薬のポイントについて図でしめしました。

2.双極性障害で使われる薬とは?

気分安定薬と抗精神病薬を中心に使われ、抗うつ剤や甲状腺ホルモン剤、ドパミン受容体作動薬が補助的に使われます。

双極性障害の治療の中心となるのは、「気分安定薬」と「抗精神病薬」の2つです。

気分安定薬は、抗躁効果・抗うつ効果・再発予防効果の3つが期待できるお薬です。気分安定薬は専門家によって定義が違うのですが、少なくとも再発予防効果が認められる薬のことです。このため、気分の「相」を少なくしてくれる薬になります。このような薬としては、以下の4つの薬があげられます。

統合失調症の治療薬として開発された抗精神病薬は、実際に使われていくうちに気分の改善効果がわかってきました。このため、双極性障害の治療薬として転用されています。

抗精神病薬は、抗躁効果や抗うつ効果を認める薬が多く、最近では再発予防効果も報告されています。このため抗精神病薬も気分安定薬ともいえるのです。双極性障害によく使われる抗精神病薬としては、以下の5つがあります。

その他にも、

などが使われることがありますが、あくまで補助的な位置づけです。

 

3.気分安定薬の双極性障害での役割

双極性障害の治療の中心といえるのが気分安定薬です。再発予防効果に優れていて、「相」の治療を行うことができます。ですから、気分安定薬は調子が元に戻ったからといって中止することはなく、服用を続けていくお薬です。

気分安定薬に共通するのは、効果が出てくるまでに時間がかかることです。ゆっくりと効果が出てきて、自然な形で気分が落ち着いていくことが多いです。

代表的な4つの気分安定薬について、ご紹介していきます。

 

3-1.リーマス(炭酸リチウム)

リーマスはもっとも古くからある気分安定薬ですが、現在でも双極性障害治療薬としては第一選択になるお薬です。3つの効果がすべて認められ、その中でも再発予防効果に優れています。

さらにリーマスは、唯一の自殺予防効果がしっかりと示されているお薬です。双極性障害は非常に苦悩の大きな病気で自殺率も高いため、リーマスの自殺予防効果は重要です。

リーマスのデメリットとしては以下があげられます。

リーマスについて詳しく知りたい方は、「リーマス錠の効果と特徴」をお読みください。

 

3-2.デパケン(バルプロ酸ナトリウム)

デパケンは抗躁効果と再発予防効果を期待して使われることが多いお薬です。デパケンは気分安定薬の中では比較的安全性が高く、服用しやすいです。またデパケンは、リーマスと比べると複雑な躁状態に効果があることが多いです。何度も気分の波を繰りかえしていたり、混合状態や急速交代型、焦燥感が強いときには向いています。

デパケンのデメリットとしては以下があげられます。

デパケンについて詳しく知りたい方は、「デパケン錠・デパケンR錠の効果と特徴」をお読みください。

 

3-3.ラミクタール(ラモトリギン)

ラミクタールは気分安定薬の中では最も新しいお薬です。数少ない抗うつ効果の期待できる気分安定薬です。ただし抗躁効果は弱いので、うつ病相が中心のときの再発予防効果に有効です。

ラミクタールの特徴は、副作用の少なさと妊娠への影響の少なさです。用法を守らないと薬疹が生じやすく、悪化すると死に至ることもある重症薬疹に発展することがあります。しかしながら薬疹さえ問題なければ、比較的安全性は高いといえます。

ラミクタールのデメリットとしては以下があげられます。

ラミクタールについて詳しく知りたい方は、「ラミクタール錠の効果と特徴」をお読みください。

 

3-4.テグレトール(カルバマゼピン)

テグレトールは抗躁効果に優れる気分安定薬です。気分安定薬の中では、もっともガッチリと気分を鎮めるお薬といえます。

しかしながらテグレトールは、副作用が全体的に多いお薬です。重症薬疹や無顆粒球症など、重篤な副作用のリスクも高いお薬なので注意が必要です。このためテグレトールは、デパケンやリーマスでも躁症状を繰り返してしまう方に使われるお薬です。

テグレトールのデメリットは以下があげられます。

テグレトールについて詳しく知りたい方は、「テグレトール錠の効果と特徴」をお読みください。

 

4.抗精神病薬の双極性障害での役割

抗精神病薬は、統合失調症の治療薬として開発されたお薬です。主に脳内のドパミン受容体に作用し、過剰になっているドパミンの働きを抑えるお薬です。

統合失調症の患者さんに抗精神病薬が使われていくうちに、気分の改善効果があることが次第にわかってきました。1990年代後半から、アメリカでは非定型抗精神病薬の気分安定薬としての転用されはじめました。2000年にジプレキサが認可されて以来、多くの抗精神病薬が使われるようになっています。

抗精神病薬に共通するのは、効果が比較的速やかに出てくることです。そのかわり、鎮静作用が効きすぎて眠気が生じたり、体重増加の副作用が多いです。

ここでは気分安定作用を期待してつかわれる代表的な5つの抗精神病薬について、ご紹介していきます。

 

4-1.セロクエル(クエチアピン)

セロクエルは、双極性障害に対する抗うつ効果が最も優れているお薬です。

双極性障害のうつ状態に効果のある薬は数が少なく、その中でもセロクエルの効果が期待できます。セロクエルでは、非哀感や感情の喪失、悲観的な思考や自殺念慮といったうつ病の中核的な症状の改善が大きく、睡眠障害の改善も報告されています。

抗躁効果は弱く、抑えとしては弱いお薬です。このため躁転(躁状態になること)のリスクのある抗精神病薬です。

セロクエルについて詳しく知りたい方は、「セロクエルのうつへの効果」をお読みください。

 

4-2.ジプレキサ(オランザピン)

ジプレキサは、双極性障害の躁状態とうつ状態の両方に適応をとっている唯一の抗精神病薬になります。

鎮静作用の強いお薬なので、躁状態に対しては優れた効果が期待できます。うつ状態に対しては、ジプレキサ単剤ではやや弱いです。海外では、抗うつ剤のフルオキセチンとの合剤であるシンビアックスが発売されています。

日本では適応はとっていませんが、アメリカでは再発予防での適応も認められています。

ジプレキサについて詳しく知りたい方は、「ジプレキサのうつ病への効果」をお読みください。

 

4-3.エビリファイ(アリピプラゾール)

エビリファイは、日本では双極性障害の躁状態とうつ病の補助療法としての適応が認められています。

躁状態では高用量で使われることが多く、しっかりとした効果が期待できます。抗精神病薬の中では鎮静作用が弱いので、比較的穏やかに気持ちを落ち着けてくれる印象です。うつ状態では低用量で使われる効果が多いです。臨床的には効果がある印象ですが、はっきりとした効果の裏付けがされていません。

エビリファイも日本では適応がとられていませんが、アメリカでは再発予防としても適応が認められています。

エビリファイについて詳しく知りたい方は、「エビリファイのうつ病と双極性障害への効果」をお読みください。

 

4-4.リスパダール(リスペリドン)

リスパダールは、日本では双極性障害に対する適応は認められていません。アメリカでは、双極性障害の躁状態や混合状態での適応が認められています。

抗躁効果に優れていて、抗うつ効果には劣ります。再発予防効果にはっきりとした裏付けはありませんが、抗うつ効果が弱いのであまり期待はできません。持続性注射剤のリスパダールコンスタでは、再発予防効果の報告もあります。

リスパダールについて詳しく知りたい方は、「リスパダール錠の効果と特徴」をお読みください。

 

4-5.ロドピン(ゾテピン)

ロドピンは非常に強い鎮静作用のあるお薬です。

このため、どうしても抑えられない躁状態のときに切り札として使われるお薬です。うつ状態に対する効果は期待できず、再発予防効果も期待できません。

ロドピンについて詳しく知りたい方は、「ロドピン錠(ゾテピン)の効果と副作用」をお読みください。

 

5.抗うつ剤の双極性障害での役割

どうしてもうつ状態が改善できない時に、一時的にリスクの少ない抗うつ剤を使うことがあります。

双極性障害では、気分安定薬が治療の中心となります。しかしながら気分安定薬には、うつ状態に効果が期待できる薬が多くはありません。セロクエル・ラミクタール・リーマス・ジプレキサでなどしかありません。

しかしながら、双極性障害はうつ状態の方が躁状態よりもはるかに長く、患者さんの苦しみも深いのです。これらの薬で効果が不十分な場合、抗うつ剤が使われることがあります。ただし、うつ病とは異なって抗うつ剤が無効であることも多いです。

 

抗うつ薬を双極性障害の患者さんに使うと、大きく3つの問題が生じます。

躁転とは、うつ状態から一気に躁状態になってしまうことです。急速交代化とは、躁病相とうつ病相の間隔が短くなり、気分の不安定さを増してしまうことです。抗うつ剤は不安や焦燥感をあおってしまう賦活症候群を起こして、時に自殺を誘発してしまうこともあります。

このため、以下のようなことに注意して使っていきます。

抗うつ剤を使うとしたら

であることが多いです。三環系抗うつ薬やSNRIは避けることが多いです。

詳しく知りたい方は、「双極性障害に抗うつ薬は効果があるのか」をお読みください。

 

6.その他の双極性障害治療薬

甲状腺ホルモン剤やドパミン受容体作動薬が使われることがありますが、あくまで補助的な位置づけです。

双極性障害の治療薬として、他にも以下の2つの薬が使われることがあります。

甲状腺ホルモン剤は急速交代型(ラピッドサイクラー)や難治性うつ病の治療に使われることがあります。急速交代型では、甲状腺機能の低下が60%もの高頻度で認められるということから、甲状腺ホルモンの不足が急速交代型を引き起こすのではと考えられています。

ただ、甲状腺ホルモンが補充されると基礎代謝が全体的に亢進するので、心臓に問題を抱えている方や糖尿病の方には注意が必要です。これらのこともあり、ガイドラインでも第三選択の治療に上げられています。

 

ドパミン受容体作動薬は、うつ状態に対して効果が期待できます。ドパミンD受容体を刺激することで、前頭葉でのドパミンの増加が効果をもたらすのだと考えられています。躁状態ではドパミン機能が亢進していることが想定されていて、うつ状態ではドパミン機能が低下していることが考えられています。

ドパミン受容体作動薬では躁転はそこまで引き起こしませんが、長期で服用すると心臓弁膜症のリスクが高まることが報告されています。このためドパミン受容体作動薬も、第三選択の治療となっています。

 

7.双極性障害の病相による薬の選択とは?

最後に、双極性障害の躁状態・うつ状態・間欠期(寛解期)ではどのような薬を使い分けていくのか、みていきましょう。

 

7-1.躁状態

軽躁状態では気分安定薬、躁状態では抗精神病薬を使っていきます。

躁の治療では、症状の程度によって治療が異なります。

軽躁状態や軽度の躁状態であれば、じっくりと時間をかけて治療することができます。このような時には、自然に気分を落ち着けてくれる気分安定薬が使われます。

気分安定薬の中では、リーマスかデパケンの単剤が最も推奨されています。リーマスではピュアな躁状態に対して効果があるのに対して、デパケンでは複雑な躁状態に効果があります。

気分安定薬の抗躁作用だけを比較するならば、テグレトール>デパケン>リーマス>>ラミクタールという印象です。テグレトールは副作用が多く、リーマスやデパケンで効果が不十分なケースに限って使われることが多いです。

後述する再発予防効果や副作用を考慮すると、日本のガイドラインではリーマスが第一選択となっていま す。

 

中等度以上の躁状態では、治療のスピードが求められます。このような場合には抗精神病薬を使うことが多いです。抗精神病薬には鎮静作用があるので、気分安定薬よりも早く落ち着かせることができるのです。そのかわり、抑えすぎてしまうこともあります。

抗精神病薬での抗躁作用を比較すると、リスパダール≧ジプレキサ≧エビリファイ>セロクエルという印象です。リスパダールではうつ転してしまうこともあります。これらの薬でも効果が乏しい時は、抗躁効果の強いロドピンを使うこともあります。

再発予防も意識して、リーマスやデパケンと併用していくことも多いです。この場合では躁状態が落ち着いてきたら、できるだけ抗精神病薬は減薬していきます。

 

7-2.うつ状態

セロクエルの抗うつ効果が優れており、リーマス・ラミクタール・ジプレキサでも効果が期待できます。どうしても改善できない場合は、抗うつ剤を慎重に使うこともあります。

うつの治療では、使える薬が限られてきます。双極性障害のうつ状態に効果がある薬としては、リーマス、ラミクタール、セロクエル、ジプレキサの4つがあげられます。

こ の中でも、セロクエルでの抗うつ効果が示されていて、ガイドラインでも推奨されています。リーマスやラミクタール、ジプレキサでも効果があるといわれていますが、効果が不十分となってしまうこともあります。リーマスとラミクタールの併用も推奨されています。

これらの薬で効果がハッキリしない場合は、リフレックス/レメロン、レクサプロ、ジェイゾロフトなどの抗うつ剤を注意しながら使っていくこともあります。

 

7-3.間欠期(寛解期)

リーマスを中心に、デパケンやラミクタール、ジプレキサやエビリファイやセロクエルなどを使っていきます。

再発予防効果としては、リーマスが最も推奨されています。リーマスでは自殺予防効果も示されてもいます。

デパケンやラミクタールといった抗てんかん薬、ジプレキサやセロクエルやエビリファイといった抗精神病薬でも再発予防効果が認められています。経過をみながらリーマスとラミクタールといった形で、これらの薬を併用していくこともあります。

ラミクタールは催奇形性が少ないため、妊娠を希望される女性の維持治療にはとても有用です。

再発予防の観点からは、抗うつ剤を使った場合、状態が落ち着いたら中止していくことが望ましいです。

 

まとめ

気分の波を小さくする(抗うつ効果・抗躁効果)だけでなく、気分の相を少なくすること(再発予防効果)が重要です。

気分安定薬と抗精神病薬を中心に使われ、抗うつ剤や甲状腺ホルモン剤、ドパミン受容体作動薬が補助的に使われます。