社会不安障害の診断基準と実際の診断

アイコン 2016.3.9 社会不安障害/社交不安障害

社会不安障害(社交不安障害)は、他人から注目されるときに過度な不安や緊張に襲われる病気です。

その症状の程度は様々で、プレゼンや発表という誰もが緊張するような状況だけを苦手とする方もいれば、人と接すること自体を苦手としてしまう方もいます。

どちらの場合も、苦手な社会的状況にさらされるのは非常に苦痛なので、できるだけ避けるようになってしまいます。これによって、生き方すらも変わってしまう心の病なのです。

社会不安障害の診断は、実はそんなに単純ではありません。統合失調症や発達障害なども念頭に置きながら、症状と経過をみていかなければなりません。ここでは社会不安障害の診断基準と、その診断の実際の流れをご紹介していきたいと思います。

 

1.社会不安障害(社交不安障害・SAD)とは?

人から注目を浴びることに極度の恐怖を感じ、そのような機会を避けようとする病気です。重度だと人に関する不安がつきまとい、社会生活がおくれなくなります。

社会不安障害とは、人から注目をあびる状況に極度の恐怖を感じる病気です。このため人前を非常に苦痛に感じたり、人前にたつことを避けてしまったりします。

社会不安障害が重度になると、人が周りにいるだけで不安や緊張が強くなってしまいます。この病気が原因で不登校になってしまうことも多く、進学や就職、結婚と、人生の様々な場面において制約がかかり、今後の人生に大きな影響を及ぼす病気です。

このような病気は、昔から対人恐怖症として知られていましたが、日本人の文化や国民性からくるものと考えられてきました。患者さん自身も病気と考えることは少なく、悩み苦しみながらも何とか耐えていくことが多かったのです。

この病気が取り上げられるようになったのは、1980年に社交恐怖としてアメリカの診断基準であるDSM‐Ⅲに取り上げられてからです。当時は、「社交場(人前)」という対象が明確な恐怖の病気と考えられました。しかしながら社交全般に恐怖をもっていると、漠然とした不安が続きます。このため不安の病気として、社会不安障害(SAD:socia anxiety disorder)と呼ばれるようになりました。

2008年に社交不安障害と日本語表記が変更となり、最新のDSM‐Ⅴでは社交不安症となっています。一般的には社会不安障害や対人恐怖症と認識している方が多いです。

 

2.社会不安障害の診断基準とは?

ICD‐10とDSM‐Ⅴの2つの診断基準があります。

社会不安障害のような心の病気の診断は、一つや二つの症状だけで簡単に決めつけることはできません。

医師が自分の感覚で勝手に社会不安障害と診断してしまうと、同じ症状でもAという人は「社会不安障害である」と診断され、Bという人は「社会不安障害ではない」と診断されるというようなことが起こりかねません。このようなことを避けるために、社会不安障害にも診断基準が作られています。

現在では、「DSM-Ⅴ」と「ICD-10」の2つの基準があります。DSM‐ⅤはAPA(米国精神医学会)が定めたもので、上から順番にチェックしていくと診断がつくようにできています。これに対して ICD-10はWHO(世界保健機関)による基準で、典型的な症状を文章で記述しています。

両者には若干の相違がありますが、貫かれている精神は「医師の違いによって起こる診断の差をなくすこと」に変わりはありません。いずれも現れている症状が当てはまるかどうかで病名を判断するので、「操作的診断基準」と呼ばれています。

これらの基準を採用することで、これまで多かった医者による診断のばらつきが改善されました。その一方で、文字面をおって診断してしまうと過剰診断しかねない危険性もあります。実際には症状だけでなく、病気の本質的な部分もみながら診断を行っていきます。

診断基準を見ていくに当たって社会不安障害の症状について詳しく知りたい方は、「社会不安障害の症状はどのように発展していくのか」をお読みください。

 

3.社会不安障害の診断基準―DSM-Ⅴ

アメリカの診断基準であるDSM‐Ⅴでは、社会不安障害はA~Jまでの10個の項目をたどっていくことで診断をつけていきます。順番にみていきましょう。

A.他者の中止を浴びる可能性のある1つ以上の社交場面に対する、著しい恐怖または不安があること

ここでいう社交場面とは、雑談したり、人に会ったり、人に見られる場所で飲食をしたり、人前で発表などをする時などです。このような時に、過剰な恐怖や不安を抱きます。

子供の場合は大人との関係だけでなく、仲間と一緒にいるときにも恐怖や不安があるときに社会不安障害を考えます。

B.ある振る舞いをするか不安症状を見せることが、否定的な評価になることを恐れていること

社会不安障害の本質的な症状として、「他人から否定的な評価をされることに対する恐怖」が根底にあります。

患者さんの中には、自分の評価というよりも「他人に迷惑をかけてしまうだろうという恐怖」を確信めいて感じていることがあります。

いずれの場合も「恥をかいてしまったらどうしよう」と恐れ、その結果として他人から否定的にみられたり、迷惑をかけてしまうことによって、自分が拒絶されてしまうのを恐れているのです。

C.社会的状況は、ほとんど常に恐怖または不安を誘発する

社会不安障害の患者さんでは、苦手な社会的状況にさらされると、常に過度な不安や緊張を感じます。そのときの症状の程度は様々で、何とか耐えられる時もあれば、不安で我を忘れて発作になってしまうこともあります。

D.その社会的状況は回避されるか、強い恐怖や不安を感じながら耐え忍ばれている

多くの方は、苦手な社会的状況をできるだけ避けようとします。ひどいケースでは、不登校やひきこもり、休職の原因となることもあります。スピーチの原稿を膨大な時間をかけて準備をしたりするように、何とか耐え忍んでいる方も多いです。

E.恐怖や不安は、その社会的状況がもたらす現実の危険や、その社会的文化的背景に釣り合わない

恐怖や不安といった症状が、不合理なものであることが周りから明らかである必要があります。以前の診断基準では本人が不合理であると認識している必要がありましたが、現在の診断基準ではそこは問われません。実際の状況にそぐわないような症状が認められます。

F.恐怖や不安、回避は持続的であり、典型的には6か月以上続く

生活の変化や成長の過程では、一時的に不安が高まることがあります。時間がたって慣れていくことで、少しずつ薄れていくならば社会不安障害ではありません。

G.恐怖や不安、回避は、臨床的に意味のある苦痛、または社会的・職業的、他の重要な機能の障害をもたらしている

もしも本人がそこまで気にしていなくて、特に自分の生き方を変えることなく過ごせているのならば、社会不安障害として治療する意義はありません。あくまで本人が苦しんでいたり、このせいで望んでいることができない時に社会不安障害と診断されます。

H.物質または他の医学的疾患の生理学的作用によるものではない

I.パニック障害・醜形恐怖症・自閉症スペクトラム障害などではない

J.他の疾患がある場合は、恐怖や不安、回避は無関係か過剰である

アルコールや薬物による影響でないことを示す必要があります。また、さまざまな精神疾患でないことも示す必要があります。この点については後述します。

 

4.社会不安障害のパフォーマンス限定型を分ける

パフォーマンス限局型と全般型に分けることができ、この2つは重症度の違いと考えられています。治療のアプローチが異なるので、分けて診断していきます。

社会不安障害は、そのタイプは大きく2つに分けて考えます。

1つ目は、プレゼンや発表など、人前に出る時だけ極度に緊張してしまうタイプです。普段はまったく問題なく、周囲とも円満に接しています。むしろ明るくて前向きな方も多いです。ですが人前や注目される場面になると、極度の緊張のあまり自分を出せなくなります。

2つ目は、生活全般に対して人と接することを苦手としているタイプです。当然のように、人前や注目される場面を苦手にしています。それだけでなく、日常生活での人との付き合いにも苦痛を感じていて、内向的な方が多いです。不登校やひきこもりの原因になることもあります。

前者の方は、パフォーマンス限局型といいます。プレゼンや発表といったパフォーマンスをする時だけに不安が限られていているので、恐怖症としてとらえることができます。

後者の方は、全般型といいます。子供の時からの恥ずかしがりや行動抑制(物事を避けたがる)という、生まれ持っての気質からはじまることが多いです。徐々に生活全般に対して消極的になってしまいます。

この2つのタイプは同じ病気であるのかどうかは、長年議論されてきました。しかしながら、病気の本質には違いがないと考えられるようになり、現在では重症度の違いと考えられています。つまり、全般性の方がより重症と考えているのです。治療のアプローチが異なるので、重症度の違いではあるのですが分けて診断することになっています。

 

5.社会不安障害の診断基準―ICD-10

ICD-10では、回避行動が必須とされています。

WHO(世界保健機関)の診断基準であるICD-10では、典型的な症状を文章で記述しています。それを読むことで、社会不安障害という病気の典型像がイメージできます。

その上で診断ガイドラインとして、3つの規準を満たす必要があるとされています。

  1. 不安の一次的な発現として、心理的症状、行動的症状、自律神経症状がみられる。妄想や強迫思考のような他の症状による二次的なものではない。
  2. 特定の社会的状況に限局される、もしくは優勢となるような不安であること。
  3. 恐怖症的状況を、常に可能な限り回避しようとすること。

ICD‐10が作られたのは、20年以上前の1992年になります。このため、社会不安障害の診断の現在の考え方は、DSM-Ⅴの方が反映されています。ICD-10でも大きく病気の概念が変わっているわけではありませんが、回避行動が必須とされています。

 

6.社会不安障害の診断は単純ではない

うつ病でないことを確認していく必要があります。また、統合失調症や発達障害でないことを確認していく必要があります。

このように見ていくと、社会不安障害の診断は簡単のように思えるかもしれません。たしかにパフォーマンス限局型の場合は、比較的わかりやすいこともあります。

しかしながら社会不安障害の診断は、単純ではありません。とくに全般型では、似たような症状がみられる他の病気を除外しなければいけません。

まずはじめに、うつ病でないことを確認する必要があります。気持ちが落ちこんで悲観的になっている時に、人の目が気になってしまって外出したくなくなってしまうのは仕方がないことです。気持ちが落ちこむまでは問題なく過ごしていたのならば、うつ病の回復とともによくなっていきます。

社会不安障害と診断が難しいのが、統合失調症です。統合失調症は幻覚や妄想が認められることの多い病気なので、全く違う病気に感じるかもしれません。しかしながら統合失調症では幻覚や妄想が明らかになる前に、社会的状況に対する恐怖感や不安感がみられることも多いです。人から見られているのではという被注察感が強くなり、色々なことに敏感になります。次第に統合失調症としての症状が広がっていくことがあるので、常に念頭に置いておく必要がある病気です。

また、発達障害が背景に隠れていることもあります。発達障害の患者さんは、コミュニケーションが周りとずれてしまったり、社会性が十分に備わっていないことがあります。その結果として不安と関係なく回避行動がみられることもあれば、社会不安障害を合併することもあります。

 

まとめ

社会不安障害の診断基準と、診断の実際についてみてきました。社会不安障害のセルフチェックをしてみたい方は、「社会不安障害(社交不安障害)をセルフチェックする4つのステップ」を続けてお読みください。

社会不安障害の背景を見極めるには専門家でも難渋することがあります。セルフチェックを通して「自分は社会不安障害では?」と思った方は、精神科や心療内科を受診するようにしましょう。