社会不安障害(社交不安障害)の原因とは?

アイコン 2016.3.6 社会不安障害/社交不安障害

社会不安障害(社交不安障害)は、人の注目を浴びるかもしれない時に、過度に恐怖をいだく心の病です。

最近は精神科の敷居もかなり下がってきましたので、社会不安障害という病気の認識も広まってきました。ですから精神科や心療内科で社会不安障害の治療をされる方も増えてきています。

その症状の程度は、プレゼンや発表などの時だけに緊張してしまう方から、あらゆる人との接触を避けてしまうような方まで多岐にわたります。

社会不安障害につながる原因としてはどのようなものがあるでしょうか?現在考えられている社会不安障害の原因について、ご紹介していきたいと思います。

 

1.社会不安障害(社交不安障害・SAD)とは?

人から注目を浴びることに極度の恐怖を感じ、そのような機会を避けようとする病気です。重度だと人に関する不安がつきまとい、社会生活がおくれなくなります。

社会不安障害とは、人から注目をあびる状況に極度の恐怖を感じる病気です。このため人前を非常に苦痛に感じたり、人前にたつことを避けてしまったりします。

誰しも注目をあびると、多少なりとも不安や緊張を覚えます。それ自体は普通のことで、緊張感の中でも自分の目的を何とかこなせます。しかしながら社交不安障害の患者さんでは、緊張のあまり頭が真っ白になったり、筋肉がこわばって声や手足が震えたりします。汗がダラダラとでてきて、恐怖が悪循環してしまうのです。

社会不安障害が重度になると、人が周りにいるだけで不安や緊張が強くなってしまいます。この病気が原因で不登校になってしまうことも多く、進学や就職、結婚と、人生の様々な場面において制約がかかり、今後の人生に大きな影響を及ぼす病気です。

 

このような病気は、昔から対人恐怖症として知られていましたが、日本人の文化や国民性からくるものと考えられてきました。患者さん自身も病気と考えることは少なく、悩み苦しみながらも何とか耐えていくことが多かったのです。

この病気が取り上げられるようになったのは、1980年に社交恐怖としてアメリカの診断基準であるDSM‐Ⅲからです。当時は、「社交場(人前)」という対象が明確な恐怖の病気と考えられました。しかしながら社交全般に恐怖をもっていると、漠然とした不安が続きます。このため不安の病気として、社会不安障害(SAD:socia anxiety disorder)と呼ばれるようになりました。

2008年に社交不安障害と日本語表記が変更となり、最新のDSM‐Ⅴでは社交不安症となっています。一般的には、社会不安障害や対人恐怖症と認識している方が多いです。

 

2.社会不安障害(社交不安障害)の6つの原因

社会不安障害では、これが原因という明確なものはわかっていません。社会不安障害は遺伝的な要因よりも環境要因が大きいと考えられています。

とくにパフォーマンス限局型とよばれるプレゼンや発表といった場面だけに恐怖を感じているタイプでは環境の要素が強く、全般型とよばれる人とふれあうこと全般に不安を感じているタイプでは遺伝の要素が強いと考えられています。

いずれにしても社会不安障害は、もともとの不安になりやすさなどの気質に加えて、その後の社会生活の中での様々な経験が大きく関係していると考えられます。

ここでは、社会不安障害の原因と考えられる要因について、一つずつみていきましょう。

 

2-1.社会不安障害の原因①-遺伝

全般型で遺伝的な影響が強く、「親をみて育つ」ことから、回避の行動パターンが作られていきます。

社会不安障害では、以下のような遺伝の影響があることもわかってきています。社会不安障害になりやすい遺伝的な気質として、以下の2つがあげられます。

とくに全般型の社会不安障害では、遺伝の影響を強く受けます。見知らない人や場所などに対して不安を抱いて警戒し、できるだけ回避しようとする行動パターンのことを行動抑制といいます。この行動抑制をとるような気質は、遺伝の影響を強くうけることがわかっています。不安気質はそのままですね。

それだけでなく、どんな親の元で育ってきたのかというのも影響します。社会との接し方は親から学んで学習することが多いです。物事の受け止め方や不安や恐怖の抱き方、それに対する対処法は、親をみて覚えていきます。このような影響を、遺伝環境交互作用といいます。

もともとの遺伝要因に加えて遺伝環境交互作用が働いた結果、両親のどちらかが社会不安障害である子供は、2~6倍リスクが高くなるといわれています。

遺伝子のレベルでも、社会不安障害に関係してきそうなものの候補が指摘されています。内向的傾向、行動抑制、神経質な性格傾向、恥かしがり屋の性格傾向などと関連する遺伝子が報告されています。

 

2-2.社会不安障害の原因②-育ってきた環境

否定的な自己評価や回避の行動パターンが作られるような育て方が、社会不安障害の原因となります。

社会不安障害は、養育環境や幼少期からの経験が大きな影響を及ぼします。以下の2つを増長させてしまうような育て方が、社会不安障害の原因となります。

具体的な育て方の例をあげてみましょう。

周りからの評価を気にして友人と比べながら育てられた場合、「周りに比べて自分は劣っている」と感じてしまいます。「失敗しないようにしなければ」という気持ちが強くなり、社会的な場面での不安や緊張が高まりやすくなります。

過保護に育てられている場合、親が子供の生活を制限させてしまうことが多くなります。あれもダメ、これもダメと親がストップをかけてしまうと、少しでも危険なことはやめといた方がよいという回避の行動パターンが子供に作られていきます。回避してしまうと苦手意識がますます増してしまうので、悪循環となってしまいます。

さらには社会的状況への対処能力(コーピング)が育たなくなってしまい、コミュニケーションスキルや感情のコントロールが未熟に育ってしまいます。

愛情が注がれていなかったり、ほめることをせずに罰をあたえることが中心の育て方ですと、「他人は厳しい存在で自分を批判する」という対人関係に対する考え方が固まってしまい、社会不安障害の原因となりえます。

 

2-3.社会不安障害の原因③-失敗体験

強烈な失敗体験はもちろんのこと、ふとした不安が発展したり、他人の失敗体験を機に社会不安障害に発展していくこともあります。

多くの人に注目されている中で失敗して恥をかいてしまったという経験をすることが、社会不安障害の原因となっていくことがあります。本当に失敗していなくても、本人の中で失敗しているという思い込んでしまうこともあります。

社会不安障害の患者さんに失敗した経験のことを話してもらうと、結果的には上手くいっているのに、ある日ふと「うまくやれているかな?大丈夫かな?」という不安を感じるようになったという方も多いです。思い返してみると、小学校の朗読の時間に声が震えていた気がする・・・とおっしゃる方もいました。

他人が失敗しているのをみて、それを自分に置き換えてしまう方もいらっしゃいます。「自分も失敗したらどうしよう」という気持ちが強くなってきてしまうのです。

このような経験をすると、できるだけ苦手な場を避けたいという気持ちで避けてしまいたくなります。こうして不安が悪循環し、社会不安障害に発展していってしまいます。

 

2-4.社会不安障害の原因④-いじめや社会的な役割の変化

いじめや昇進などは、社会不安障害を発症するひとつのきっかけになります。

いじめも、社交不安障害の発症に影響することがあります。同世代の友達の中でいじめられるという経験は、非常に屈辱的な経験です。自分は周りに比べて劣っているのではと、周囲の目線を気にしてしまうきっかけになります。再び人間関係に関して傷つくことをおそれ、回避パターンが出来上がってしまうこともあります。

意外と多いのが、社会的な役割の変化が影響しているケースです。係長の時は大丈夫だったのに、課長になったら急に人が怖くなる方もいます。昇進して立場があがることで、潜在的な自己評価の低さとのギャップが大きくなってしまいます。立場の変化で、人から注目を浴びる機会も増えるので、不安の悪循環が始まってしまうのです。

 

2-5.社会不安障害の原因⑤-性格

全般型とパフォーマンス限局型では、性格傾向が真逆であることも多いです。

もともと生まれもっての気質をベースにして、さまざまな環境や経験が積み重なって性格が形成されていきます。社会不安障害の患者さんの性格は、全般型の方とパフォーマンス限局型の方では大きく異なります。

全般型の方は、

といった性格の方が多いです。社会不安障害ときくと、多くの方がイメージされる性格です。回避的な傾向があまりに強くて社会生活での影響が大きいと、回避性パーソナリティ障害となってしまうこともあります。

パフォーマンス限局型の方は、真逆な方も多いです。「よりよく生きなければ」「よりうまくやらなければ」といった気持でこれまで過ごしてきた方が多く、何かをきっかけに裏返しとしての恐怖が染みついてしまっているのです。

このため性格としては、

といった方が多いです。私もパフォーマンス限局型の社会不安障害で悩んでいたのでよくわかります。恐怖の裏には、人とより上手く接したい、良く思われたいという気持ちがあるのです。

それでも根底には、神経質や心配性という気質が認められることが多いです。それは決して悪いことではなく、良い方に発揮されれば几帳面や規則をよく守るといった性格となります。

 

2-6.社会不安障害の原因⑥-年齢と性別

10代の前半から発症する患者さんが多く、不登校や引きこもりの原因になります。性差ははっきりしませんが、男性の方が社交の機会が多く、悩まれている方が多い印象です。

アメリカの統計では、社会不安障害の平均発症年齢は13歳と報告されています。75%の患者さんが、8~15歳に発症するとされています。このように社会不安障害では、10代での発症が多いのです。

社会不安障害に苦しむ子供は、周囲からは控えめな子供とうつります。不登校やひきこもりの背景には、社会不安障害が原因として隠れていることもあります。例えば大学生では、教室の講義までは何とか通えていたものの、3年生になってゼミが始まると通えなくなってしまうこともあります。

このように成長していく過程に多いのは、この時期が非常に多感な時期であることも影響しているでしょう。少しずつ自分がはっきりし始めてきて、思考や行動のパターンが固まっていく時期です。この時期での経験が大きく影響しているのでしょう。

性差に関しては、女性が多い(オッズ比1.5~2.2)と報告されています。しかしながら男性の方が人前に出る機会が多く、悩まれて受診される方が多いように感じます。女性の場合は恐怖が広がっていることが多く、他の病気と診断されていることも多いかも知れません。

 

3.社会不安障害(社交不安障害)が悪化する原因

回避行動による恐怖の悪循環が、社会不安障害の悪化の原因です。

人は多くの人と関係を築きながら生きています。家を出れば、街は人であふれています。学校や仕事にいけば多くの人間関係があり、子育てをしていてもママ友達やご近所などの人間関係が必ずあります。

社会不安障害の患者さんは、そのような社会生活の中で傷つきやすい状況にあります。もともと人前で苦手意識を持っている患者さんが人の注目を浴びると、不安や恐怖を感じます。その結果として、過緊張による吐き気やふるえ、発汗などの自律神経症状が認められ、失敗体験となってしまいます。

失敗体験をしてしまうと、人前を避けるようになってしまいます。そして人前では、さらに苦手意識が生まれてしまいます。「また失敗してしまうのではないか?」という予期不安が作られていきます。このようにして少しずつ失敗体験が積み重なっていき、恐怖の悪循環の輪が強くなってしまうのです。

 

社交不安障害の悪循環について

この悪循環のループが、社会不安障害を悪化させていきます。確かに人前を避ける回避行動をすれば、不安は一時的に軽減します。しかしながらこの回避行動が、社会不安障害の悪化の原因です。

回避行動をしてしまうことで、成功体験を積むチャンスが失われていきます。そして少しずつ、自己評価が低くなっていきます。「どうせ自分にはできない」と考えてしまうことで、さらに回避傾向が強くなってしまいます。こうして苦手意識(認知)は固定化してしまって、回避行動も習慣化してしまいます。

ですから社会不安障害では、この回避行動をたちきっていく必要があるのです。

 

4.社会不安障害(社交不安障害)の生物学的な原因

偏桃体の過活動が原因と考えられていて、神経伝達物質のセロトニンやドパミンの低下が認められます。

社会不安障害を発症してしまうと、脳ではどのような状態になっているのでしょうか?現在は画像検査が発展していて、恐怖を感じている時に脳のどこの部分を使っているのかを調べることができます。

スピーチをさせたり、人の様々な表情を見せたりすると、偏桃体とよばれる脳の奥にある部分が活動的になります。表情での偏桃体の過活動は、社会不安障害の重症度とも関係していると報告されています。

このことから、社会不安障害の患者さんでは表情認知の歪みがあることが推測されています。つまり、普通の顔をしている人も怒った表情に見えてしまっているということです。

偏桃体は、恐怖を作り上げるのに重要な役割をしている部分です。恐怖は生きていくために必要なことで、恐怖を感じることを避けることで自分の身を守るのです。この偏桃体が過活動になることで、不必要にさまざまな身体の恐怖反応を引き起こします。血圧上昇や心拍数の増加、呼吸数増加、抗ストレスホルモンの増加などです。

動物実験で偏桃体を破壊すると、不安や恐怖が消失することが確認されています。恐怖について詳しく知りたい方は、「恐怖とは何か?恐怖を克服する治療法とは?」をお読みください。

 

脳の神経伝達物質をみていくと、セロトニンやドパミンの低下が関係していると考えられています。セロトニンは、偏桃体の活動を活発にするグルタミン酸神経の働きを抑制します。これによって不安や恐怖と、それに伴う身体の様々な反応を抑えるのです。セロトニンが低下してしまうと、偏桃体の抑えがきかなくなってしまいます。

また、線条体という部分でドパミンが低下していることが分かっています。線条体は運動機能に関係すると考えられていて、パーキンソン病の原因部分として有名です。しかしながら認知にも重要な役割があると考えられているので、表情認知の歪みと関係するのかもしれません。

社会不安障害の薬物療法は、基本的にはSSRIと呼ばれる抗うつ剤になります。少量のドパミンを増やすお薬が有効なこともあり、セロトニンとドパミンの欠乏が生物学的原因のひとつであることを裏付けています。

 

まとめ

社会不安障害とは、人から注目を浴びることに極度の恐怖を感じ、そのような機会を避けようとする病気です。重度だと人に関する不安がつきまとい、社会生活がおくれなくなります。

その原因としては、以下の6つがあげられます。

回避行動による恐怖の悪循環が、社会不安障害の悪化の原因です。

偏桃体の過活動が原因と考えられていて、神経伝達物質のセロトニンやドパミンの低下が認められます。