広場恐怖症の症状・診断と、広場恐怖症を克服する治療法

アイコン 2016.6.8 パニック障害・広場恐怖

広場恐怖症(agoraphobia)は、「逃げ場がない状況」や「助けが得られない状況」に対して恐怖を感じる病気です。

このような状況では誰もが不安に思いますが、広場恐怖症の患者さんでは過剰です。例えばバスや電車など、普通の人が「逃げ場がない」と感じることのない状況であっても、恐怖を感じてしまいます。

広場恐怖症は、典型的にはパニック障害に合併します。7~8割のパニック障害の患者さんで、広場恐怖症が合併している印象です。ですから広場恐怖症は、これまではパニック障害に付随する症状のひとつと考えられていました。

しかしながら最新の診断基準では、広場恐怖症として独立した病気とされました。広場恐怖症を合併するかどうかで、パニック障害の治療アプローチもかわってきます。

ここでは、広場恐怖症の症状と診断についてまずみていき、それを踏まえて広場恐怖症を克服する治療法についてお伝えしていきたいと思います。

 

1.広場恐怖症の症状とは?

広場恐怖症とは、自分がコントロールできない状況に対する恐怖のことです。その恐怖に伴って、パニック発作が認められることが多いです。

広場恐怖症の「広場」は、皆さんがイメージする広場とは少し異なります。この広場は、ギリシャ語の「アゴラ」に由来しています。古代ギリシャでは、広場を集会の場としていました。このため広場は非常に多くの人でごった返しており、身動きが取れない状況となることが多かったのです。

この時代に広場恐怖症を患っている患者さんが、このような状況で強い恐怖に襲われることがあったのでしょう。このために、広場恐怖症(agoraphobia)と名付けられています。

広場恐怖症は、「逃げ出すことができない状況」や「助けを得られない状況」に対して恐怖を感じる病気です。このような苦手な状況にさらされると、激しい恐怖や不安に襲われてしまいます。

そのような状況としては、様々なものがあります。人ごみ、地下鉄や電車、飛行機や新幹線、美容院や歯医者、トンネルやエレベーター、さらには窓のない部屋などになります。

例えば美容院では、いつでも逃げ出せるように思うかもしれません。しかしながらいざカットが始まると、そこから逃げ出せない恐怖感が出てきてしまいます。頭では大丈夫とわかっていても恐怖にとりつかれてしまうのです。

高所恐怖症の方でしたら、絶対に安全な高層ビルや展望台でも、下を見下ろすとゾワゾワして腰がひけるてしまいますね。広場恐怖症でも同じで、頭で大丈夫と理解していても、いざその状況になると恐怖反応が起こってしまいます。

 

このような広場恐怖は、パニック障害と合併することが多いです。パニック発作を経験したことが原因となって、「いつまたパニック発作が起こってしまうのだろうか」という不安から広場恐怖がつくられてしまうのです。

このように広場恐怖症の患者さんでは、苦手な状況になると不安を感じるようになります。そしてできるだけ苦手な状況を避けようとしてしまいます。一度苦手な状況から回避してしまうと、次に同じ状況に直面するときにはより不安が強くなります。

こうした悪循環から少しずつ行動範囲が狭くなってしまいます。公共機関がつかえなくなり、そして次第に外出ができなくなって引きこもってしまう方もいらっしゃいます。

 

2.広場恐怖症の診断基準とは?

広場恐怖症は、従来はパニック障害の症状の一つと考えられていました。最新の国際的診断基準であるDSM‐Ⅴでは、広場恐怖症がパニック障害と独立した病気として扱われるようになりました。

このため、ここではDSM‐Ⅴに基づいた診断基準に従って、広場恐怖症の実際の診断の流れをご説明していきます。

A.以下の5つの状況のうち2つ以上について著明な恐怖・不安がある。

  1. 公共交通機関の利用(自動車・バス・列車・船・航空機)
  2. 広い場所にいること(駐車場・市場・橋)
  3. 囲まれた場所にいること(店・劇場・映画館)
  4. 列に並ぶ、または群衆の中にいること
  5. 家の外に一人でいること

広場恐怖の本質的な症状は、苦手な状況にさらされることがキッカケとなって生じる激しい恐怖や不安です。まず初めに、苦手な状況が2つ以上存在する必要があります。

ひとつの状況だけでは、それだけが苦手ということもあります。例えば高所恐怖症であれば、飛行機は苦手ですよね。異なるシチュエーションを苦手にすることには、パニック障害の本質的な恐怖に関係しています。

広場恐怖症では、「逃げ出せないこと」「助けが得られないこと」などの、「自分がコントロールできないこと」に対して恐怖があります。このような状況になると、恐怖や不安が生じる必要があります。診断基準では具体的な状況として、5つがあげられています。

B.パニック様の症状や、その他の耐えられない当惑するような症状が起きた時に、脱出は困難で援助が得られないかもしれないと考え、これらの状況を恐怖し回避する。

先ほどお伝えしたように、広場恐怖症ではコントロールができないことに対する恐怖があります。このため、「ここから出ることができない」「誰も私を助けてくれない」といった状況になると、恐怖や不安が高まります。そしてそのような状況を、できるだけ避けようとします。

C.広場恐怖症の状況は、ほとんどいつも恐怖や不安を誘発する。

広場恐怖症と診断されるためには、同じような状況になるといつも恐怖や不安が高まる必要があります。

D.広場恐怖症の状況は積極的に避けられ、仲間の存在を必要とし、強い恐怖や不安を伴って耐えられている。

広場恐怖の状況をできるだけ避けようとします。それは日課を変えたり、バスや電車を避けたりといった行動的なものだけではありません。苦手な状況をやり過ごすために気をそらすといった認知的(考え方)なものも含まれます。

E.その恐怖や不安は、広場恐怖症の状況によってもたらされる現実的な危険やその社会的文化的背景に釣り合わない。

広場恐怖症による恐怖や不安は、合理的な恐怖と区別する必要があります。危険な状況で恐怖を感じるのは普通のことです。例えば、高齢者が助けが得られないような状況で身体のことを心配するのは、ある程度までは普通のことです。

F.その恐怖や不安、回避は持続的で、典型的には6か月以上続く。

6か月以上とすることで、一過性のものではないことが求められます。それでは6か月以内だと診断できないのかというと、そんなことはありません。柔軟にみていき、明らかにほっておいたら6か月以上続くときは広場恐怖症と考えます。

G.恐怖や不安、回避は、臨床的に意味のある苦痛、または社会的・職業的、他の重要な機能の障害をもたらしている。

もしも本人がそこまで気にしていなくて、特に自分の生き方を変えることなく過ごせているのならば、広場恐怖症として治療する意義はありません。あくまで本人が苦しんでいたり、このせいで望んでいることができない時に広場恐怖症と診断されます。

H.他の医学的疾患が存在すれば、恐怖や不安、回避が過剰である。

I.他の精神疾患の症状ではうまく説明できない。

アルコールや薬物による影響でないことを示す必要があります。また、さまざまな精神疾患でないことも示す必要があります。

分離不安症や社交不安障害などでは、不安の本質が何かを考えることで見分けることができます。うつ病では、その意欲低下や興味の減退から回避行動にみえることがあります。

広場恐怖症は、パニック障害とは関係なく診断される病気です。両方の診断基準を満たせば、合併していると考えます。

 

3.広場恐怖症を克服する治療とは?

広場恐怖症ではお薬で症状を抑えて、暴露反応妨害法(認知行動療法)を中心とした精神療法を組み合わせることによって治療を進めていきます。

広場恐怖症の治療では、薬物療法と精神療法を組み合わせて行っていきます。

広場恐怖症ではパニック発作が合併していることが多いですが、お薬によってパニック発作や予期不安を落ち着かせて、症状をコントロールすることが重要です。いつパニック発作に襲われるかわからないという状況では、恐怖を克服していくことができません。

ですからまずは、薬物療法から行っていきます。セロトニンを増加させる作用のあるSSRIなどの抗うつ剤を中心に、抗不安薬などを使っていきます。症状がコントロールできるようになってきたら、少しずつ精神療法を積み重ねていきます。

広場恐怖症の患者さんでは、暴露反応妨害法という行動面を重視したアプローチをしていきます。簡単にいうと、苦手な状況に少しずつ慣らしていく精神療法で、じっくりと積み重ねていく必要があります。

広場恐怖症の患者さんは、症状がよくなってもしばらく治療を続けていく必要があります。一度こびりついた恐怖は、表面的に消えても無意識の部分に染みついています。症状がよくなって治療を終了して10年間みていくと、広場恐怖症の患者さんの半数は再発するといわれています。

ですから広場恐怖症を克服するには、じっくりと治療を積み重ねていくことが大切です。良くなったと思っても自己判断で治療を中止せず、医師と治療のゴールを相談してください。そして少しでも不安が発作的にみられるようになったら、早めに病院に相談するようにしてください。

 

4.広場恐怖症を克服するための薬物療法

広場恐怖症では、抗うつ剤を中心とした薬物療法が効果的です。広場恐怖はお薬でサポートしつつ、精神療法を積み重ねていく必要があります。

広場恐怖症の薬物療法の中心となるのは、セロトニンを増加させるSSRIなどの抗うつ剤です。SSRIとしては、以下の4種類が発売となっています。

患者さんの状態や状況をみながら、どのお薬が向いているのかを選んでいきます。抗うつ剤には即効性がなく、少しずつ効果があらわれてきます。抗うつ剤のイメージとしては、「神経を太くするお薬」と考えると分かりやすいかも知れません。ささいなことに気にならなくなるという形の効き方になります。

抗うつ剤の効果が表れるには時間がかかるため、即効性のある抗不安薬を併用することが多いです。抗不安薬としては、半減期が長いメイラックスなどを常用し、半減期が短いワイパックスなどを頓服として使うことが多いです。

抗不安薬を漫然と使うと耐性(効かなくなっていくこと)と依存性(やめられなくなること)の問題があるため、抗うつ剤の効果が認められてきたら、少しずつ抗不安薬は減量していきます。

 

このような薬物療法によって不安がコントロールできるようになると、患者さんも回復の安心感がもてます。心に余裕がでてくれば、柔軟に物事が考えられるようになっていきます。

広場恐怖症では、薬物療法だけではなかなか克服できません。「逃げ出せないかもしれない」という苦手な場面での不安や恐怖を軽減することはできますが、完全になくし去るのは難しいです。

このため、お薬でサポートしながら精神療法を積み重ねていく必要があります。広場恐怖症を克服するためには、薬物療法だけでなく精神療法を行っていく必要があります。

薬物療法について詳しく知りたい方は、「パニック障害に効く薬とは?パニック障害の薬物療法の効果と副作用」をお読みください。

 

5.広場恐怖症を克服するための精神療法

広場恐怖症では、暴露療法を中心とした精神療法を積み重ねていきます。

お薬によって広場恐怖に向き合うための気力がでてきたら、精神療法を行っていきます。

広場恐怖症の精神療法は、「習うより慣れろ」で行っていくことが多いです。つまり、「習う=認知」よりも「慣れる=行動」を行っていくのです。

この2つのアプローチがあるわけですが、広場恐怖症では行動療法よりの精神療法を行っていきます。具体的にいうと、暴露療法(エクスポージャー)という方法を行います。

暴露療法とは、ざっくり言ってしまうと不安に慣らせていく治療法です。この治療法の原理としては、苦手なものに暴露された時に感じる不安の「2つの慣れ」があります。

あえて自分を苦手なものにさらしていき、その不安が時間と共に薄れていくことを身体で理解して学習していきます。そうはいっても、いきなり無理をしてはいけません。不安階層表というものを作り、取りくみやすいものを課題として順番に行っていきます。

パニック障害の不安階層表(PDF)

このうちの点数が低いものから順番に暴露していきます。

ここで大事なのは、不安や不快感が生じることに慣れることです。自分の内面に出てくる感情を言葉にしながら、それに慣れていくことが大切です。内面の感情を慣らさずに表面的に耐えてしまうと、良くなったと思っていたら急に広場恐怖がよみがえってしまいます。

いきなり暴露するのが難しい方は、誰かに付き添ってもらったり、イメージから始めてみても大丈夫です。できることから少しずつ始めていきましょう。

治療がある程度進んでくると、不安を下げるだけでなくて不安耐性を高めることを意識しながら暴露療法をすすめていきます。

複数の刺激を同時に与えてみたり、いろいろな課題に暴露してみます。ときには不安階層表の点数の高いものと低いものをおりまぜて「やることリスト」を作り、どのような感情にも慣れていけることを学習していきます。

最終的には暴露間隔を少しずつあけていって、一度忘れてしまったことを再学習するようにしていきます。

詳しく知りたい方は、「暴露療法(エクスポージャー)とはどういう治療法なのか」をお読みください。

 

まとめ

広場恐怖症とは、自分がコントロールできない状況に対する恐怖のことです。その恐怖に伴って、パニック発作が認められることが多いです。

広場恐怖症ではお薬で症状を抑えて、暴露反応妨害法(認知行動療法)を中心とした精神療法を組み合わせることによって治療を進めていきます。

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