抜毛症(トリコチロマニア)の原因・診断から治療まで

アイコン 2016.5.11 強迫性障害

抜毛症とは、その名のとおり、毛を抜いてしまう病気のことです。

抜毛してしまうには様々な原因がありますが、多くの患者さんは抜毛を何とか止めたいと考えています。抜毛すること自体だけでなく、抜毛した結果として周囲の目を気にしたりして苦痛を感じるのです。

抜毛症はもともと、衝動のコントロールができない病気と考えられていました。しかしながら最近では、強迫性障害の関連疾患という考え方に変わってきています。

ここでは、抜毛症の原因と診断がどのように行われていくのかをご紹介します。それを踏まえて、どのように治療していくのかをみていきましょう。

 

1.抜毛症(トリコチロマニア)とは?抜毛癖との違い

抜毛症は衝動をコントロールできない病気と考えられてきましたが、強迫行為による病気と考えられるようになってきています。

まずは抜毛症とはどのような病気なのか、お伝えしていきたいと思います。

抜毛症(トリコチロマニア)とは、繰り返し自分の体毛を引き抜いてしまうことを特徴とする病気です。抜毛症は最近になって病気としての考え方が変化している疾患で、最新の国際的な診断基準のDSM-Ⅴでは、強迫性障害の関連疾患のひとつとしています。

それまでは抜毛症は、ICD-10では「習慣および衝動の障害」に、DSM-Ⅳ―TRでは「衝動制御の障害」に分類されていました。つまり、「毛を抜きたい」という衝動をコントロールできない病気と考えられていたわけです。

しかしながら最近の考え方では、抜毛症は強迫行為を主とする病気と考えられるようになりました。いちど抜毛をしてしまうと、その繰り返し行為を止められなくなってしまう病気と考えられています。

はっきりした強迫観念があるわけではないのですが、強迫行為としての抜毛をした時に「なんだか落ち着かない」感覚があって止められなくなってしまいます。

強迫性障害の中での運動性タイプに近い病気と考えられています。詳しく知りたい方は、「強迫観念と強迫行為とは?強迫性障害の症状」をお読みください。

多くの患者さんが、抜毛している時は安心感や安堵感を感じます。ですが抜毛が終わって振り返ると、後悔することも多いです。外見で恥かしさを感じ、何とかして抜毛を止めたいと考えます。

抜毛癖と抜毛症の違いは、ここにあるでしょう。抜毛癖では「癖」のレベルなので、そのせいで大きな苦痛を感じたり、後悔するということは少ないです。「またやってしまった」というレベルのことで、体毛が無くなってしまうまでには至りません。

 

2.抜毛症の原因とは?

抜毛症の原因は、遺伝と環境要因が組み合わさって発症すると考えられています。思春期からはじまって、慢性的に経過することが多いです。女性が男性の10倍です。

抜毛症の原因は、まだまだ分かっていないことだらけです。抜毛症という病気自体の考え方が最近になって変わったことからも分かるでしょう。

病気の原因を考える時に、大きく分けると遺伝と環境の2つに分けて考えることができます。抜毛症は遺伝的な要因もあることがわかってきていて、それに環境要因も加わって発症すると考えられています。

抜毛症では、遺伝的になりやすい人が存在します。抜毛症の患者さんの家族には、強迫性障害の患者さんが多いことが分かっています。

さらに抜毛症の患者さんは、長男や長女であることが多いと報告もされています。これは遺伝だけでなく、養育方法や家族での役割などの違いが原因となっていることを示唆しています。

抜毛症に特有のストレスが分かっているわけではありませんが、ストレスの積み重ねで発症することは間違いないと思われます。女性の場合は、生理前後や更年期といった女性ホルモン変化があるときに抜毛がひどくなることもあります。

 

抜毛の始まりは、多くの場合が思春期です。10代からはじまって慢性的に経過していきます。女性では、男性の10倍の発症リスクがあります。とはいえ、男性は女性よりも抜毛が問題になりにくいので、受診する患者さんが少ないという影響も大きいでしょう。しかしながら、女性の方が発症しやすい病気といえます。

これには女性の方が、容姿や外見に対する評価が人生に影響しやすいこともあげられるかと思います。さらには髪は女性性の象徴とも考えられるので、女性性を受け入れられないことが抜毛の原因となることもあります。

抜毛症は、欧米の調査では1~2%の12か月有病率と報告されています。少ない病気ではありません。

 

3.抜毛症の症状と診断とは?

抜毛症の診断は、診断基準に従いながら行っていきます。診断基準には主要な症状も含まれているので、抜毛症の診断基準から症状をみていきましょう。

アメリカ精神医学会(APA)のDSM-Ⅴという国際的な診断基準をもとに見ていきたいと思います。この診断基準では、AからEまでの5項目を上から順番にチェックしていくことで抜毛症と診断できるようになっています。

簡単にまとめると、

  1. 体毛を繰り返し抜いてしまうこと
  2. 抜毛をやめようとすること
  3. 本人が苦しんでいるか、生活に大きな支障があること
  4. 他の病気で説明ができない

順番に、詳しくみていきましょう。

A.繰り返し体毛を抜き、その結果体毛を喪失する

抜毛症の本質的な症状は、繰り返し自分の体毛を抜毛してしまうことです。抜毛はどの場所と決まっているわけではありません。毛があるところならどこでもおこります。よくみられるのは、頭皮、眉、眼瞼などです。

抜毛する場所は、時間とともに変わることも多いです。一つの箇所をずっと抜毛してしまう人もいれば、あらゆるところから1本ずつ体毛を抜くような人もいて、抜毛の仕方もいろいろあります。

抜毛症と診断するには、結果的に「体毛が喪失する」状態にまで至る必要があります。ですが後者のように1本ずつ抜くタイプでは、この条件を満たさない場合もあります。このような人は抜毛症ではないのかというと、そんなことはありません。総合的に見て基準を満たすと判断します。

B.体毛を抜くことを減らす、またはやめようと繰り返し試みる

多くの患者さんでは、不安感や退屈さが引き金になります。抜毛をすると満足感や安堵感、快感につながることがあるので、抜毛をしたいという衝動にかられます。

これに対して、グッと我慢して抵抗するような患者さんもいれば、抵抗せずにすぐに抜毛してしまう患者さんもいます。何かに集中している時は自動的に抜毛してしまいますが、普段は抵抗するような患者さんも多いです。

次にお伝えするような社会的なデメリットがあるため、抜毛症の患者さんのほとんどは、何とか抜毛をやめようと意識しています。

C.体毛を抜くことで、臨床的に意味のある苦痛、または社会的・職業的・他の重要な機能の障害をもたらしている

抜毛することで痛みを感じることは通常ありません。むしろ、頭のムズムズした感覚がスッキリするという患者さんもいます。

抜毛をすることで不自然に体毛がなくなってしまいます。このような外見に対して、患者さん自身も苦痛に感じます。ですからそれを隠すために、かつらや化粧などで隠そうとする方も多いです。

抜毛の程度がひどくなってしまうと、隠し切れなくなってしまいます。そうなると仕事やプライベートで、好奇な目でさらされてしまうこともあります。本人がそれを敏感に感じ取って苦痛を感じたり、できるだけ人目を避けて行動するようになったりしてしまいます。

ですから通常、家族を除いて他人の前では抜毛しません。

D.他の医学的疾患の生理学的作用によるものではない

E.他の精神疾患の症状ではうまく説明できない

抜毛が他の病気をきっかけにして症状として現れることもあります。考えていく必要がある病気としては、以下のようなものがあげられます。

強迫性障害の患者さんの中では、対称性にとらわれてしまうこともあります。左右対称でなければいけないと思い込み、儀式的に抜毛行為を行ってしまうこともあります。

身体醜形障害も強迫性障害に関連する病気ですが、自分が醜いのではというとらわれがあります。このため、醜さをなくすために体毛を除去するという形で抜毛することがあります。

発達障害の患者さんでは、常同行動が認められることがあります。触った感覚や痛み感覚は、頭の中で理解を必要としない感覚です。発達障害の患者さんでは、このような触覚や痛覚といった原始的な感覚に安心感を求めることがあります。そのために抜毛してしまうことがあります。

統合失調症の患者さんの中には、幻覚や妄想に左右されて抜毛することもあります。皮膚の炎症疾患などでも抜毛することがあります。

 

4.抜毛症の治療とは?

抜毛症の治療では、薬物療法と行動療法を行っていきます。皮膚科的な問題がある時は、その治療も行う必要があります。

抜毛症の患者さんは、何とかして止めたいと思っていることが多いです。ですが病院に相談するまでには思えず、だましだまし周りから抜毛がばれないように生活をしていることも多いです。

家族の前では気を許して抜毛を止めないことも多いので、家族の方が問題に思って受診につながることもあります。ひとり暮らしをされている方では、なかなか治療につながらないことも多いです。

抜毛を癖の一つと考えている患者さんも多いかと思います。しかしそれが生活に支障がきているならば、病気として治療するべきです。抜毛症はひとりで治療することは困難なので、精神科や心療内科を受診して相談しましょう。

精神科・心療内科の受診について知りたい方は、「精神科・心療内科の受診のイメージと流れ」をお読みください。

 

治療をしていく場合は、基本的には日々の生活の中で改善をしていく必要があります。お薬で症状を緩和させながら、生活の中での努力も必要になります。

お薬の治療としては、強迫性障害と同じように薬物療法を行っていきます。セロトニンを増やすお薬を使っていきますが、強迫性障害よりも有効性は低い印象です。

強迫性障害の薬物療法について詳しく知りたい方は、「強迫性障害に有効な薬とは?強迫性障害の薬物療法」をお読みください。

お薬で症状が緩和できるようになったら、精神療法を行っています。精神療法としては、行動療法を中心としたアプローチとなります。

抜毛症の患者さんでは、抜毛する状況が決まっていることもあります。そのような患者さんでは、精神療法を行いやすいです。そのような状況にあえて身をさらして(暴露)、不快感を我慢(反応妨害)します。

暴露反応妨害法について詳しく知りたい方は、「暴露反応妨害法(エクスポージャー)とはどういう治療法なのか」をお読みください。

そのような決まった状況がない患者さんでは、抜毛をしたくなったら我慢するようにしていかなければなりません。ハビット・リハーサル訓練という方法を一般的に行っていきます。

まずは抜毛行為に気づけるようにしていきます。気づけるようになったら、抜毛したいという衝動が起きそうになった時に、それを打ち消す行動をとれるようにします。周囲からは目立たないような、例えば手をぎゅっと握るといった動作でよいのです。なかなか一人で行っていくのは難しく、家族のサポートも必要になることが多いです。

発達障害の傾向がある方は、抜毛すること以外の触覚で安心感がもてる癖を身につけるのも方法です。触っていると落ち着くものをみつけて、それで抜毛を落ちつけるようにしていきます。いったん抜毛から離れるようにしてから、その触覚に頼る癖も少しずつ減らしていきます。

皮膚科的な問題がある時はもちろん、その治療もしていきます。このように抜毛症の治療は、時間をかけてすすめていきます。

 

まとめ

抜毛症は衝動をコントロールできない病気と考えられてきましたが、強迫行為による病気と考えられるようになってきています。

抜毛症の原因は、遺伝と環境要因が組み合わさって発症すると考えられています。思春期からはじまって、慢性的に経過することが多いです。女性が男性の10倍です。

抜毛症の治療では、薬物療法と行動療法を行っていきます。皮膚科的な問題がある時は、その治療も行う必要があります。