不安神経症とは?不安神経症の診断の実際

アイコン 2016.7.18 全般性不安障害

実のところ不安神経症という病気は、現在は正式な病名としては使われなくなっています。

不安神経症は昔に使われていた病名で、急性不安と慢性不安の両方をひっくるめた病気でした。しかしながら現在では、不安神経症というと慢性不安が中心の患者さんが診断されることが多いと思われます。

不安は本来あってしかるべきものなのですが、過剰になると日常生活に支障をきたすような病的な不安になります。現在の診断基準では、全般性不安障害と診断されます。

どうして正式な診断基準でない「不安神経症」が未だに使われているのでしょうか。ここでは、不安神経症についてお伝えし、不安神経症の診断基準(全般性不安障害)について詳しくお伝えしていきたいと思います。

 

1.不安神経症とはどのような病気なのか

不安神経症とは、もともとは病的な不安である急性不安と慢性不安をひっくるめた病気でした。

まずは不安神経症とはどういう病気なのか、時代をさかのぼってみていきましょう。

不安神経症(anxiety neurosis)という病気の概念は、かの有名なフロイトによって作られました。これまでは神経衰弱(極度の精神的な疲労状態による不適応)とされていたものの中から、病的な不安の病気を分けたのです。

病的な不安には急性不安と慢性不安があるとして、それぞれには以下のような不安があるとしました。

しかしながら急性不安と慢性不安は、明確に区別されないままにされていました。不安神経症という病気は、何らかの葛藤が原因で、その症状として急性不安と慢性不安が入り混じっていて、時間の経過でも変化するものと考えられていました。

その考え方が大きく変わったのが、1964年のことです。パニック発作がトフラニールによって改善することが発見され、急性不安には身体の生物学的なレベルでの原因があることがわかったのです。

これによって急性不安は慢性不安から取り出されるようになり、1980年のDSM‐Ⅲによって診断基準が大きく見直されました。

パニック障害や強迫性障害、社交不安障害やPTSDなどの急性不安が病気として独立し、残った慢性不安は全般性不安障害という病気となりました。ここで不安神経症という病名は使われなくなりました。

全般性不安障害はどちらかというと、急性不安の残り物といった位置づけになっていましたが、少しずつ慢性的な病的不安という疾患像を明確にしていこうという試みが去れています。とはいえDSM‐Ⅴとなった現在でも、いまだに病気としての定義が定まっていない病気となっています。

 

2.現在使われる不安神経症とは?

少なくとも慢性不安が強い状態であることを意味しています。このため現在の診断基準では、不安神経症は全般性不安障害となる患者さんが多いです。

このような経緯で正式には使われなくなった不安神経症ですが、今なお年配の先生を中心に、よく使われる病名になります。私もちょくちょく、診断書や紹介状で「不安神経症」という病名をみかけます。

不安神経症がいまだに使われるのには、「慢性不安と急性不安のどちらでも使える」という使いやすさがあります。このようにいうと無責任かもしれませんが、実はちゃんと意味があることなのです。

精神科の病気は、その本質を見極めるには時間がかかります。身体の病気のように検査をすれば原因がはっきりするというものではなく、その人を知っていくにつれて少しずつ本質がみえてくるのです。

そして時には、診断名を患者さんに伝えることが治療的でないこともあります。病気のネガティブなイメージを患者さんが受け止められないこともあるのです。

このように明確に診断ができない時には、ぼやけたいい方のある不安神経症という病名は使いやすいのです。はっきりとはわからないけれども、病気の本質は不安にあると判断された時につけられることが多いです。なかにはただ単純に、診断することを怠っている医師もいますが…

さて、不安神経症という診断がつけられる患者さんにはひとつだけ共通していえることがあります。それは、慢性不安が認められることです。

急性不安だけの病気はわかりやすいので、例えばパニック障害などと診断がつけやすいのです。しかしながら慢性不安は、どんな病気でも認められる症状です。さらには、心配性といった正常な不安との区別も難しいです。

ですから不安神経症と診断されるときには、慢性不安が強い状態であるとうことだけは言えます。このため現在の診断基準では、全般性不安障害と診断される患者さんが多いです。

 

3.不安神経症の診断基準とは?

全般性不安障害のDSM‐Ⅴの診断基準に準じてみていけばよいでしょう。

心の病気の診断は、身体の病気のように検査をして客観的に診断できるものではありません。このため医師が自分の感覚で診断してしまうと、同じ症状でも人によって症状がバラバラになってしまうことがあります。

このようなことを避けるために、「DSM-Ⅴ」と「ICD-10」国際的な2つの診断基準が作られています。いずれの診断基準も、基準に当てはまるかどうかをみていくことで病名を判断するので、「操作的診断基準」と呼ばれています。

不安神経症と診断された患者さんは慢性不安が強い状態のことが多く、全般性不安障害であることが多いです。このため不安神経症は、全般性不安障害の診断基準に準じてみていけばよいかと思います。

全般性不安障害の考え方は年々変わっており、最も新しい診断基準のDSM‐Ⅴが一般的によく使われています。以下では、不安神経症の診断の参考に、全般性不安障害のDSM-Ⅴ出の診断基準をご紹介していきます。

 

4.不安神経症(全般性不安障害)の診断基準DSM-Ⅴ

アメリカの診断基準であるDSM-Ⅴでは、全般性不安障害はA~Fまでの6項目をたどっていくことで診断をつけていきます。簡潔にまとめると、

  1. 過剰な不安や心配がある
  2. 不安や心配がコントロールできない
  3. 精神症状や身体症状がある
  4. 苦痛や生活への支障がある
  5. 他の病気や物質のせいではない

となります。それでは順番にみていきましょう。

A.(仕事や学業などの)多数の出来事または活動についての過剰な不安と心配(予期憂慮)が、起こる日のほうが起こらない日より多い状態が、少なくとも6か月間にわたる。

全般性不安障害の中心症状は、過剰な不安と心配の2つになります。6か月以上慢性的に続いていることが必要で、診断基準では心配している日の方が多いとしています。

実際の全般性不安障害の患者さんは、不安と心配に毎日悩まされている方が多いです。不安なこととしては、例として仕事や学業があげられています。年齢によっても傾向があって、日常生活での出来事に対して過剰な不安や心配がみられます。

元々の草案では、家庭・健康・経済的問題・学業/仕事のうち2つ以上となっていましたが、これでは過剰診断になる可能性があるとして、この診断基準となっています。

B.その人は、その心配を抑制することが難しいと感じている。

「こんなに心配しなくても大丈夫」と頭では分かっているのに、それを抑えることができません。全般性不安障害の患者さんでは、「大丈夫だとはわかっているんだけど心配で…」といったように、自分でも過剰だという認識がある患者さんも多いです。

この項目は、もともとは削除される予定でした。というのも、過剰な不安と感じている時点で制御できないことを意味するため、重複してしまうからです。

C.その不安および心配は、以下の6つの症状のうち3つ(またはそれ以上)を伴っている(過去6か月間、少なくとも数個の症状が、起こる日のほうが起こらない日より多い)。(注:子どもの場合は1項目だけが必要)

  1. 落ち着きのなさ、緊張感、または神経の高ぶり
  2. 疲労しやすいこと
  3. 集中困難、または心が空白になること
  4. 易怒性
  5. 筋肉の緊張
  6. 睡眠障害(入眠または睡眠維持の困難、または、落ち着かず熟眠感のない睡眠)

過剰に不安や心配をしてしまうと、それに従って精神症状と身体症状の両方が認められます。

このうち精神症状として「緊張感や過敏・集中困難・易怒性・睡眠障害」、身体症状として「易疲労感・筋緊張」の6つがあげられていて、そのうちの3つ以上が認められる必要があります。

昔の診断基準では自律神経症状も含まれていましたが、他の不安障害でも認められるとして削除されました。さらには、「緊張感や過敏・筋緊張」の2つ以外は全般性不安障害でなくても認められるとして削除される予定でした。

D.その不安、心配、または身体症状が、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。

全般性不安障害と診断される病的な慢性不安は、本人が困っているか、生活に何らかの支障が生じている必要があるとされました。

このことは反対に、本人がそこまで困っていなくて、生活にも支障なく過ごせている場合は、慢性的な不安症状があっても見逃されることになります。

E.物質または他の医学的疾患の生理学的作用によるものではない

F.その障害は他の精神疾患ではうまく説明されない。

アルコールや薬物はもちろん、身体の病気ではないことが必要です。そして他の精神疾患が原因ではないことも必要です。

例えば、社交不安障害の患者さんでは、「他人から悪く思われないか」ということを恐れて、テストや仕事などを評価されることに対して不安を感じます。患者さんの不安がこれだけであれば、社交不安障害と診断されるべきです。

社交不安だけでなく、さまざまな出来事や活動に不安が広がっている場合は、全般性不安障害が合併していると診断されます。

 

5.正常な「心配性」と病的な「不安神経症」の違い

不安神経症は、治療する意義がある慢性不安のことになります。本人の苦痛や生活への支障というだけでなく、行動面に明らかに影響があれば、不安神経症と診断して治療するべきです。

これまで不安神経症とはどのような病気なのかをみてきましたが、もう一つ難しい線引きがあります。それは、性格の延長線上として考えるべきの正常な「心配性」と、病的な慢性不安と考える「不安神経症」の違いをどのようにつけるかです。

性格から不安になりやすい人はいます。それ自体は決して悪いことばかりではなく、不安になるから準備ができますし、不安になるから確認してミスも少なくなります。

このような性格の延長線上にある心配性は、病気として治療する意義は少ないと思います。不安神経症という病気を診断するのはどうしてかというと、治療する意義があるからです。

つまり病的な慢性不安とは、治療する必要のある心配性といってもよいかもしれません。それではそのような心配性は、どのようにして見分ければよいのでしょうか?

 

診断基準では、「本人が困っているか、生活に何らかの支障がある」というのを線引きにしています。確かに、困ったり支障があれば、それを治療していくべきではありますね。

非常にシンプルではあるのですが、不安神経症の患者さんの特徴を考えると、そんなに単純ではないのです。不安神経症の患者さんは過剰な不安を自覚していても、それを病気だと思ってはいないことも多いからです。

ですが、何らかの行動面にあらわれていることが多いです。本当はやりたいことを回避してしまったり、準備や決断に明らかに時間がかかったり、誰かに「大丈夫だよ」という保証を求めてしまったりします。

このように生活への支障とまではいかなくても、第三者がみえて行動面で影響がみられたら不安神経症として治療していくべきなのです。

 

6.不安神経症の診断の実際

不安神経症という診断には曖昧さがありますが、診断が明確でないからといって治療が変わるわけではありません。不安神経症という「病気」として診断することで、患者さんが治療に取り組んでいくことが大事です。

これまで不安神経症という病気についてみてきましたが、もともとが不安障害全体を意味する病名だけに、不安神経症には様々な病気が含まれています。

不安神経症で共通しているのは慢性的な不安が強いということだけで、その原因は様々です。急性不安の病気であるパニック障害のせいで不安が強まっていることもあれば、全般性不安障害と合併していることもあります。

大切なことは、不安神経症と診断して病名がつくということです。

病気がつけば治療が始まっていきます。患者さんが治療に取り組んでいくためには、病名が必要になります。そんなときに不安神経症という診断名は使い勝手が良いのです。不安障害と診断していることとかわらないのですが、不安神経症の方が「いかにも」という感じがします。

しっかりと診断してもらわないと、間違った治療をされてしまうと不安になる方もいるかもしれません。それは全く問題ありません。そもそも精神疾患は一見でわからないことがほとんどで、少しずつ患者さんを知っていくことで薬物療法と精神療法を行っていきます。

不安障害では薬物療法はおおむね共通していますので、同じお薬を使っていくことになります。精神療法は「この病気だからこれ」といった画一的なものではなく、患者さんによってアプローチを変えていくものです。治療が診断によって変わるということはありません。

不安神経症の患者さんは慢性不安が強いため、ちょっとしたことに不安や心配を感じやすいです。医療に対しても不安が向いてしまうことが少なくありません。要領よく症状を伝えるために、あらかじめ要点を箇条書きにしてメモに渡していただくと診断と治療がすすめやすくなります。

 

まとめ

不安神経症の診断の実際についてみてきました。

今では正式な病名として使われませんが、今なお診断されることが多いです。不安神経症と診断することによって、「病気」として患者さんが治療していくことにつながるのです。

ですから不安神経症という病気は、「病気として治療した方がよい不安がある」ということを意味しています。

診断が明確でないからといって、治療がかわるわけではないので安心してください。不安神経症は慢性不安が強い患者さんが多く、全般性不安障害と診断される患者さんが多いです。

全般性不安障害の診断基準について詳しく知りたい方は、「全般性不安障害(GAD)の診断基準と実際の診断の流れ」をお読みください。

スポンサーリンク

スポンサーリンク