解離性健忘をチェック!解離性健忘の症状・原因・診断基準・治療

アイコン 2017.1.8 解離性障害

解離性健忘とは、個人的な経験や出来事といったエピソード記憶に関して、確かに記憶しているはずなのに思い出せなくなってしまうことです。

解離性健忘が認められる方の多くは、何らかの外傷体験(トラウマ)をかかえています。そのトラウマに関係したエピソード記憶の健忘がみられることが一般的で、過去のことを思い出せなくなる逆行性健忘になります。とはいっても記憶がなくなっているわけではなく、何らかのきっかけでフラッシュバックしてしまうこともあります。

このような解離性健忘ですが、はじめは気が付かない方も多いです。仕事や家庭などの社会生活の中で違和感を感じて、記憶の空白に気がつくこともあります。

ほかの解離性障害の部分症状として認められることもあります。ストレスになる出来事があると記憶を分離して自分を守るという、一種の防衛機制のようになっている側面があります。このため解離性健忘は、薬物療法だけではなく精神療法が重要になる病気になります。

ここでは、解離性健忘についてみていき、その症状・原因・診断基準・治療についてチェックしていきたいと思います。

 

1.解離性健忘(離人症)の症状とは?

解離性健忘とは、ストレスになるエピソードの記憶を分離して想起できなくすることで、自分自身を守ろうとする防衛機制です。

まずは解離性健忘とはどのような病気なのか、お伝えしていきたいと思います。

解離性健忘とは、ストレスに感じるエピソード記憶の解離になります。

私たちは日々の生活の中で、様々な経験をしてその記憶を積み重ねています。その延長線上に「いまの自己」があります。記憶にはいくつか種類があります。

これらのうち、解離性健忘ではエピソード記憶が想起できなくなってしまいます。ですから、どのような経験をしたかなどを思い出せませんが、一般的な知識や日常生活での動作などは忘れることはありません。普通に生活はできるけれども、過去の自分の一時期が思い出せないという形になります。

こういった健忘なので、過去を思い出せない逆行性健忘に分類されます。先のことを覚えられなくなる前向性健忘とは異なります。

健忘してしまうエピソードは、いわゆるトラウマと呼ばれるような外傷的な体験やストレスの強い経験であることがほとんどです。こういったストレスになることを健忘という形で分離することで、自分自身を守るという防衛機制になっているのです。

解離性健忘のメカニズムとしては、区画化や時間的変容で説明がされています。詳しく知りたい方は、「解離性障害とは?解離性障害の症状と種類」をお読みください。

 

2.解離性健忘の原因とは

解離性健忘は、遺伝的な要素も示唆されていますが、環境要因が大きいと考えられています。

それでは解離性健忘は、どのような原因で発症するのでしょうか?

大きく分けて遺伝的な要因と環境的な要因があげられますが、解離性健忘では環境的な要因が大きいと考えられています。とくに、外傷体験(トラウマ)との関連が明らかにされています。

ここでは、解離性健忘の原因となりうる要因を見ていきたいと思います。

 

①遺伝と性格・考え方

性格や物事の考え方は遺伝的な気質に加えて、さまざまな経験の中で少しずつ形成されていきます。このため性格や考え方には、遺伝の要素と環境の要素が重なって影響しています。

遺伝的な要因については、遺伝研究などはあまりおこなわれていません。ですが遺伝要因については、臨床研究で一部指摘されています。

解離性健忘の方の性格的な特徴としては、一見社交的で表面的に明るくても、対人関係に関しては引きこもりがちとなってしまいます。情緒的な交流が乏しく、自分自身を表現するのが苦手です。

そしてストレスなことがあると、行動戦略として回避することを選びがちです。このためせっかく病院に受診しても、治療から回避してしまうこともあります。

うまれもっての気質として、損害回避の気質は関係しているかもしれません。損害回避の気質とは、不安になりやすく、行動を抑えてリスクを好まない生まれ持っての性格傾向です。

 

②幼少期の虐待などのトラウマ

解離性健忘が認められる方は、幼少期に虐待を受けていることが多いということがわかっています。身体的な暴力、性的な虐待などが大きな要因となります。その頻度や暴力性が高いほど生じやすいといわれています。

 

③ストレス

日々の生活の中では様々なストレスがありますが、対人関係や仕事でのストレス、経済的なストレスなどの現実的な問題が原因となって解離性健忘が認められることがあります。

トラウマのような極端なものでなくとも、ストレスによって心的エネルギーが不足してしまうことが原因のひとつとなります。過剰なストレスが加わることは、解離性健忘の原因となります。

経済的問題、異性問題、家族問題、仕事上の問題、親しい人との死別などを機に発症することもあります。このような問題を解決できず、相談もできずに孤立して悪循環となり、突然に意識水準が低下して解離性健忘が認められることがあります。

 

3.解離性健忘の症状と診断とは?

解離性健忘の診断をすすめていくには、診断基準を元に行っていきます。解離性健忘の診断基準には、アメリカ精神医学会(APA)のDSMと世界保健機関(WHO)のICDがあります。

解離性健忘のDSMとICDでの大きな違いは、DSMが解離性障害のカテゴリーに含まれているのに対して、ICDではその他の神経症性障害に分類されていることです。

確かに「離人症状」「現実感消失症状」は解離性障害特有のものではありませんが、解離性障害でよく認められる症状になります。ここでは、DSMに基づいて診断基準をご紹介していきます。

DSMの最新の診断基準であるDSM‐Ⅴでは、AからDまでの4項目を上から順番にチェックしていくことで、解離性健忘として診断できるようになっています。

簡単にまとめると、

  1. ストレスの強いエピソードの想起ができないこと
  2. 本人が苦しんでいるか、生活に支障が大きいこと
  3. 物質や他の疾患によるものでないこと
  4. 他の精神疾患では説明がつかないこと

順番に、詳しくみていきましょう。

A.重要な自伝的情報で、通常、心的外傷的またはストレスの強い性質を持つものの想起が不可能であり、通常の物忘れでは説明ができない。

解離性健忘は、健忘が存在する必要があります。健忘とは、いわゆる物忘れになりますが、物忘れにもいろいろな種類があります。

大きく分けて前向性健忘(新しいことを覚えられない)と逆行性健忘(過去のことを思い出せない)がありますが、解離性健忘は原則的に逆行性健忘になります。記憶は確かに保持されているのですが、想起ができないということです。ちゃんと脳には残っているので、いつでも回復する可能性があります。

解離性健忘の種類として、大きく5つあります。

全般性健忘(全生活史健忘)では、急激に発症して目的のはっきりしない移動をすることがあります。そして、遠く離れた見知らぬ土地で保護されたりします。このことを、これまでは解離性遁走として診断されてきました。新しいDSM-Ⅴの診断基準では、解離性健忘に含まれることとなりました。

B.その症状は、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。

解離性健忘では、自分自身が正しく健忘を認識することが難しいです。とても目立つ症状ではあるのですが、患者さんからの訴えがなければ見逃してしまいます。

ですから、これまでの生い立ちなどを問診していくときに、あいまいなところがあれば解離性健忘の可能性を疑うことが大切です。記憶がうすれることは多かれ少なかれありますが、特定の人物に関係する記憶がないような系統的健忘では、疑いが深まります。

解離性健忘を病気として診断されるには、問題が起きて治療を必要としていることが条件となります。

このどちらかがある時に、解離性健忘という病気として診断し、治療を進めていくことが出来ます。記憶を思い出せなくなることは周囲の人から見れば問題に感じるかもしれませんが、本人は過去の記憶から自分自身を守っている面があります。

健忘の間に何かしてしまうと怖いと思うかもしれませんが、解離性健忘ではまとまった行動をしていることが多いです。知らぬ間に買い物をしてしまったり、記憶のないメールなどがある場合は、解離性同一性障害などと鑑別が必要になります。

しばらくの期間忘れていたのに、解離していた記憶が徐々に戻ってくることもあります。そういったときに苦しみが深くなり、フラッシュバックなどのPTSD症状が認められることもあります。

C.その障害は、物質、または神経疾患または他の神経学的疾患の生理学的作用によるものではない。

アルコールやその他の薬物によって、健忘が認められることがあります。アルコールで記憶がなくなってしまう経験をされた方もいらっしゃるかもしれませんが、ストレスが強い状況下でアルコール乱用を繰り返してしまうと、見分けるのは難しいこともあります。

アルコールなどの物質の長期にわたって使用していたり、認知機能が持続的に低下している場合は、解離性健忘の診断は慎重に進めていく必要があります。

D.その障害は、解離性同一症、心的外傷後ストレス障害、急性ストレス障害、身体症状症、または認知症または軽度認知障害によってうまく説明できない。

解離性健忘は、

は除外する必要があります。解離性同一症とストレス障害で健忘が認められることがありますが、これらの病気の部分症状と考えます。もっと多彩な特徴のある症状が認められるので、本質的な症状ととらえません。身体症状症や認知症の症状とし、健忘が認められることもありますが、これも同じように解離性とは区別します。

それ以外の病気に関しては、重複して診断することが出来ます。実際に解離性障害の患者さんは、病気を合併することが多いです。

かつての身体表現性障害の転換性障害などの不安障害、うつ病や双極性障害といった気分障害、統合失調症などが合併することもあります。パーソナリティ障害としては、依存性パーソナリティ障害や回避性パーソナリティ障害、境界性パーソナリティ障害が認められることが多いです。

 

4.解離性健忘の治療とは?

解離性健忘に決まった薬物療法があるわけではありません。どのようなメカニズムで解離が生じているのかを考え、それに適した薬物療法を行っていきます。そのうえで精神療法を進めていくことで、少しずつ葛藤の解消を目指していきます。

解離性健忘をはじめとした解離性障害では、薬物療法と精神療法を合わせて行っていくことが必要です。解離性障害では心理的要因や環境要因が複雑に絡んでいて、その症状の表れ方も様々です。ですから、これといって決まった薬物療法があるわけではありません。

解離性障害では、大きく2つの目的でお薬を使っていきます。

解離性健忘では、どのようなメカニズムで症状が認められるかを考えていくことが大切です。

恐怖や不安発作などが目立つ場合は、抗うつ剤抗不安薬が軽減してくれます。ベースにある気分の不安定さや衝動性が目立つ場合は、気分安定薬抗精神病薬の効果が期待できます。

そしてそれ以外に、うつ状態や不安障害などを合併したときに使われます。しかしながら合併症治療を急ぐあまりに、根底にある病状を不安定にさせてしまうこともあります。例えばうつ状態に抗うつ剤を使ったときに、効果が不十分だからと増量すると、気分の不安定性や衝動性を悪化させることがあります。

解離性障害ではその表面的な症状にとらわれて、お薬が多剤併用になりがちです。本質的にどのようなお薬が全体的な症状の軽減に有効かを考えながら使っていくことが大切です。

一般的に解離性障害は、治療期間は長くなります。解離性障害では何らかの葛藤が認められることが多く、そうした心理的なわだかまりを少しずつほぐしていくことが必要になります。このため、カウンセリングによる精神療法をしっかりと行っていくことも大切です。

根深いトラウマがある場合は、安全な環境で外傷記憶を想起して、少しずつ処理していくことが必要になります。そして現在の生活の中に影響していることがあれば、それに対して洞察を深めていきます。また、ストレスの対処法についても振り返り、少しずつ適応的な防衛機制に置き換えていきます。

このように治療をすすめていくので、年単位の精神療法をじっくりと行っていく必要があります。

カウンセリングについては、「カウンセリングはどうして高いのか?カウンセリングの実情と選び方」をお読みください。

 

まとめ

解離性健忘とは、ストレスになるエピソードの記憶を分離して想起できなくすることで、自分自身を守ろうとする防衛機制です。

解離性健忘は、遺伝的な要素も示唆されていますが、環境要因が大きいと考えられています。

解離性健忘に決まった薬物療法があるわけではありません。どのようなメカニズムで解離が生じているのかを考え、それに適した薬物療法を行っていきます。そのうえで精神療法を進めていくことで、少しずつ葛藤の解消を目指していきます。