適応障害の診断基準をふまえて、適応障害はどう診断されるのか

アイコン 2016.9.28 適応障害・ストレス性障害
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適応障害とは、置かれている環境に上手く適応できず、そのストレスによって心身に様々な症状が生じてしまう心の病気です。

環境変化をきっかけとなることが多く、結婚や離婚といった家庭の変化、転職・異動や昇進といった仕事の変化が原因となります。

ですから誰しもがなりうる病気で、有病率は5~20%とも報告されています。環境変化があればストレスになるので、多少の心身の不調をきたすことはあります。それは正常な生理反応で、適応障害とはいえません。

それでは適応障害は、どのようにして診断していくのでしょうか。適応障害を正しく診断していくために、国際的な診断基準が作られています。しかしながら適応障害はあいまいな部分も多く、本来の概念よりも広く診断される傾向にあります。

ここでは、適応障害の診断基準をご紹介し、実際にはどのように診断していくのかをみていきましょう。

 

1.適応障害とは?

適応障害は、病気の原因、症状の経過、症状の程度から診断されます。本人と環境に埋められないギャップがあり、それによって心身に「病気」とみなしたほうが良い症状が認められるときに、適応障害と診断されます。

まずは適応障害がどういう病気なのか、みていきましょう。

適応障害(Adjustment Disorder)は、環境に上手く適応できずに、様々な心身の症状が認められる病気です。

ほとんどが環境が変わったことをきっかけに認められ、本人が適応しようと努力してもうまくいかないことがストレスになります。そのストレスによって心身の症状が認められるため、適応障害の症状は多岐にわたります。

ストレスを受けて落ち込む人もいれば、不安が強くなる人もいます。イライラしてケンカや口論が増えてしまったり、お酒の量が増えてしまうこともあります。

適応障害の診断は、こういった症状から判断することはできません。適応障害を診断していくに当たっては、

を大事にして診断していきます。適応障害の本質的な原因は、本人と環境の間に大きなギャップがあるということです。本人の価値観や特性のなかで、自分の置かれている環境に適応しようと努力します。それでもうまく適応できない場合、適応障害となるのです。

このような病気なので、適応障害の患者さんもストレス要因を自覚しています。ストレスと症状に因果関係があります。そしてストレス因である環境がかわれば、比較的速やかに良くなっていくことが多いです。

そして心身の症状も、「病気」とみなしたほうが良いほどの程度である必要があります。

というのが、適応障害とみなして病気と考えたほうが良い判断ポイントとなります。

これが本来の適応障害という病気になります。ですが適応障害は、様々な理由でオーバーに診断されがちです。続けて適応障害の診断基準をみていきながら、実際の診断についてお伝えしていきたいと思います。

適応障害の症状について詳しく知りたい方は、「適応障害とは?適応障害の症状にはどのようなものがあるのか」をお読みください。

 

2.適応障害(GAD)の診断基準とは?

DSM-ⅤとICD-10の2つの診断基準があります。適応障害の診断基準としては、どちらも内容に大きな変わりはありません。

適応障害のような心の病気の診断は、身体の病気のように検査で客観的に診断できるものではありません。

医師が自分の感覚で勝手に適応障害と診断してしまうと、同じ症状でも人によって診断がバラバラになってしまいます。このため、適応障害にも診断基準が作られていて、それに従って診断していきます。

現在では、「DSM-Ⅴ」と「ICD-10」の2つの基準があります。

DSM‐ⅤはAPA(米国精神医学会)が定めたもので、上から順番にチェックしていくと診断ができるようになっています。これに対して ICD-10はWHO(世界保健機関)による基準で、典型的な症状を文章で記述しています。

両者には相違はありますが、貫かれている精神は「医師の違いによって起こる診断の差をなくすこと」に変わりはありません。いずれの診断基準も、基準に当てはまるかどうかで病名を判断するので、「操作的診断基準」と呼ばれています。

これらの基準を採用することで、これまで多かった医者による診断のばらつきが改善されました。その一方で、文字面をおって診断してしまうと過剰診断しかねない危険性もあります。実際には症状だけでなく、病気の本質的な部分もみながら診断を行っていきます。

適応障害では、この両者の内容的な違いはほとんどありません。順番に上からたどっていくDSM-Ⅴのほうが、診断の要点が理解がしやすいように思いますので、まずはDSM-Ⅴからご紹介していきます。

 

3.適応障害(GAD)の診断基準-DSM-Ⅴ

アメリカの診断基準であるDSM-Ⅴでは、適応障害はA~Eまでの5項目をたどっていくことで診断をつけていきます。簡潔にまとめると、

  1. ハッキリとしたストレス因があって、3か月以内に症状が出現
  2. 著しい苦痛や生活に支障がある
  3. ほかの精神疾患でも、死別反応でもない
  4. ストレス因がなくなると改善し、6カ月以内によくなる

となります。それでは順番にみていきましょう。

A.はっきりと確認できるストレス因に反応して、そのストレス因の始まりから3カ月以内に情動面または行動面の症状が出現。

適応障害と診断していくためにはじめにみていくのは、

になります。適応障害では、ハッキリとしたキッカケがあります。それを患者さん本人も自覚している必要があります。「何が原因だかわからないけれども…」という場合は、適応障害とは診断されません。

適応障害は多くの場合、ストレス因に上手く適応できないことで発症します。ストレス因とは、多くの場合は環境の変化になります。

ありとあらゆる環境変化がストレス因になります。周りの人から見れば、「そんなことで…」と思うような変化もあるかもしれません。ですが価値観は人によって異なります。その人の考え方や特性では受け入れられない環境であった場合、努力しても適応はできずに適応障害の原因となります。

ですから周りから見たら些細であったり、ときには甘えじゃないかとすら思えるような変化でも、本人と環境にギャップが大きく、それを努力しても埋められずに症状が認められれば適応障害となるのです。

このように適応障害は、ストレス因と症状の間に因果関係があります。何とか適応して努力をしていく中で、それがストレスとなり症状が認められます。反対にいえば、そのストレス因がなければ適応障害にはなっていなかったと想定される必要があります。

適応障害の診断基準では、3カ月以内に症状が認められることとしています。実際には症状が認められるのはもっと早く、1か月以内で何らかの症状が認められることがほとんどです。

 

B.これらの症状や行動は臨床的に意味のあるもので、それは以下の1つまたは両方の証拠がある。

  1. 症状の重症度や表現型に影響を与えうる外的文脈や文化的要因を考慮に入れても、そのストレス因に不釣り合いな程度や強度をもつ著しい苦痛
  2. 社会的、職業的、またはほかの重要な領域における機能の重大な障害

適応障害では、ストレスから様々な症状が認められます。特に決まった症状があるわけではなく、ストレスで生じるすべての症状といっても過言ではありません。ですからどのような症状かは、あまり重要ではありません。

診断基準では情動面や行動面に症状がみられるとされていますが、身体症状も認められます。適応障害でよく認められる症状として、診断基準では中心症状を以下の3つから特定することとなっています。

それ以外にも、不眠や食欲低下といった睡眠や食事の乱れ、頭痛や吐き気、下痢といった自律神経症状がよく認められます。

適応障害では、その症状が「病気」と考えたほうが良いほどの程度である必要があります。その線引きとしては、

となっています。例えば、職場が移動になって全く合わない上司のもとで働くことになったとしましょう。ストレスは当然かかるので、イライラしたり、多少の頭痛がしたりするのは正常なストレス反応です。

しかしながら、「頭が働かなくて仕事がすすまない」「感情のコントロールがつかなくて、キレてしまう」「会社の人と会うと冷や汗が止まらない」といった、想像される以上の症状が認められば適応障害と考えます。

また、「体がだるくて仕事にいけない」「電車に乗ろうとすると吐き気や下痢が止まらない」といった生活への支障がでていても、適応障害と考えます。

このように適応障害は、「病気と考えるほどの症状の程度か」をみて診断していきます。この点は医師が主観的に判断する要素が大きく、曖昧なところがあります。

C.そのストレス関連障害は他の精神疾患の基準を満たしていないし、すでに存在している精神疾患の単なる悪化でもない。

D.その症状は正常の死別反応を示すものではない。

適応障害は、本人と環境のギャップが原因となって生じる病気です。ストレスに対して心因性に生じたのが適応障害ですから、うつ病のように脳の機能のバランスが崩れた病気のほうが優先されます。

うつ病や双極性障害、統合失調症などの内因性疾患(脳の機能異常が想定される疾患)の診断基準が満たされれば、そちらが優先されて診断されます。

発達障害や精神遅滞(知的障害)、パーソナリティ障害など、本人の性格や特性の病気がある場合は、ケースバイケースです。その症状がベースの病気の悪化によるものであれば適応障害ではありません。ですが、環境の変化の中で本人なりに努力してもうまく適応できないのであれば、適応障害になります。

例えば、発達障害の患者さんでは、コミュニケーションが得意ではありません。これまではパソコン業務だけだったのが、急に対人業務のある仕事をまかされるようになると、本人が頑張っても適応ができません。このようなときは、適応障害と診断されます。

 

また、誰もが心身のバランスを崩してしまっても仕方がないような出来事の場合、適応障害とは診断されないことがあります。例えば、

などがあります。

ですが死別反応でも、想定される以上の症状で生活に支障があれば適応障害と診断されます。また急性ストレス障害やPTSDを引き起こす出来事があっても、症状がそこまでひどくない場合は適応障害と診断されます。

E.そのストレス因、またはその結果がひとたび終結すると、症状がその後さらに6カ月以上持続することはない。

適応障害は、ハッキリとした原因によるストレス反応です。ですから、その原因がなくなれば比較的すぐに良くなっていきます。例えば職場が原因であれば、配置転換ですぐに良くなることもあります。

適応障害の診断基準をみると、ストレスがなくなれば6か月以上は持続しないとされています。適応障害の症状が認められてから早く対処すればするほど、症状の改善は早いです。数日でよくなっていくこともあります。

しかし中には、症状がすっきりと良くならないこともあります。

例えば休職した方では、一時的にストレスが軽減して楽になっても、「休職というキャリア」という現実(新しい環境)と自分の価値観とのギャップで症状が続いてしまうこともあります。

一見すると診断基準に合わないように見えますが、はじめのストレス因とは異なる適応障害といえます。

 

4.適応障害(GAD)の診断基準―ICD-10

ICD-10はDSM-Ⅴとは大きな内容に違いはありません。

参考までにICD-10の適応障害の診断基準に関して、その要点をまとめたいと思います。その内容は、DSM-Ⅴと大きく変わりません。具体的に文章で書かれています。それを踏まえて、以下の診断ガイドラインがあります。

  • 診断は、以下の諸項目間の関連の注意評価に基づく。
  1. 症状と形式、内容及び重症度
  2. 病歴と人格
  3. ストレス性の出来事、状況、あるいは生活上の危機
  • Cの項目の存在は明確に確認されるべきであり、それなしに障害は起こらなかったという証拠がなければならない。

 

5.適応障害(GAD)の診断の実際

適応障害は実際には、広く診断されることが多いです。これは、適応障害という診断基準を幅広く解釈しやすいことや、精神疾患を診断するということの意味が大きく関係しています。

適応障害は本来、

このような特徴のある病気です。しかしながら適応障害の診断基準には曖昧さがあり、広く解釈することができます。

極端に言ってしまえば、すべての病気はストレスによって悪化します。そして発症のきっかけにストレスが認められます。このようなストレスに上手く適応できないと広く解釈すれば、どのような病気でも適応障害となりうるのです。

このような診断名として、かつては心因反応という病名がよく使われました。現在は適応障害がよく使われる傾向にあります。心因という「イベント」から、適応という「本人」の問題も含めた考え方にシフトしているともいえます。

さて、このように適応障害を広く診断するのはどのようなケースでしょうか。中にはしっかりと診断できていないということもあるかもしれませんが、多くの場合は社会的・治療的な理由です。

というのは、診断をハッキリとつけられないときや、ハッキリつけない方が良いときがあるためです。そのようなときに、とりあえずつける病名として適応障害はとても便利です。

もう少し掘り下げてみていきましょう。

 

①診断に時間経過が必要なケース

心の病気は、「一回の診察ではわからない」ことが多いです。ですから、「あなたは〇〇病です」と断定できないことはよくあります。

どうしてわからないのでしょうか?それには以下の2つがあげられます。

心の病気を診断するためには、これまでの経過は非常に重要になります。しかしながら過去のエピソードは、患者さんから語られることから推測しなければなりま せん。もちろん本当のことをうまく聞きだすのも精神科医・心療内科医の技術なのかもしれませんが、それでも限界があります。

そして心の病は、一時点で判断できるものでもありません。病気によっては症状が動揺したりするものもあります。経時的に見て、その症状の変化をみていかなければ診断ができないこともあるのです。

 

②診断することが治療的でないケース

もう一つの理由としては、本当の診断をするのが治療的でないことがあるのです。

もちろんいずれは自分の病名を正しく知って、それを受け止めたうえで前向きに治療をしていく必要 があります。しかしながら心の病気では、その病名を受け止められない方も多いのです。そのような方に病名を伝えても、治療的ではなくなってしまいます。

病気によっては、怠けもの、自分勝手、未熟者、わがまま、といったようなネガティブなイメージがつきかねないことがあります。うつ病ですら、悪いイメージを抱かれてしまうことも少なくありません。ただでさえ精神疾患は腫れ物に触るように対応されることも多いのに、このレッテルが社会復帰を妨げることもあります。

また、本人が病気を受け止められないこともあります。自分の本当の姿と向き合うことには、非常に大きなエネルギーを必要とします。症状が悪いときに伝えて も、その大きさに耐えられません。さらに調子が悪化してしまいます。

病名を告げる時は、本人が直面化に耐えられる状況でなければいけません。ですから精神科医は、少しずつその状況を探りながら本当の病名を伝えていくのです。

そのようなケースでは、適応障害というのは診断として便利なのです。どのような病気であっても、精神疾患にはストレスが大きく関係しています。何らかのストレス因があることが多いです。それらのストレスに対する適応障害というのは、患者さんも納得しやすいのです。

詳しく知りたい方は、「なぜ精神科や心療内科では、病名や診断が告げられないのか」をお読み下さい。

 

まとめ

適応障害の診断基準と、診断の実際についてみてきました。

適応障害の診断基準は、

  1. ハッキリとしたストレス因があって、3か月以内に症状が出現
  2. 著しい苦痛や生活に支障がある
  3. ほかの精神疾患でも、死別反応でもない
  4. ストレス因がなくなると改善し、6カ月以内によくなる

このようになっています。本人と環境の間に埋められないギャップがあり、そのストレスで病気レベルの症状が認められるのが適応障害です。

しかしながら適応障害は、拡大解釈されて診断されることが多いです。どのような病気でもストレスが悪化の大きな要因です。「ストレス因に対する適応ができない」と考えれば、極端な話、すべての病気が適応障害になりうります。

ですから、

には、適応障害と暫定的に診断されることがあります。